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第6話
俺の所属するプロレス団体は練習場としてリングを常設した道場がある。全体的に少し錆びたプレハブでできた道場は広くはないが狭くもない。そんな道場の真ん中に鎮座する正方形のリングで、俺は次の試合に向けて練習をする。
俺と次の試合の対戦相手の加納と試合運びの確認を兼ねた練習だ。
加納は俺の後輩にあたる選手だが、団体のエースである槙橋のタッグパートナーとして活躍している。人気のレスラーだ。
ヒールレスラーとして試合をする俺は、汚い技しか使わない。レフェリーの見てない角度からの金的、口に入れたセコンド水を相手に吐き出す汚水攻撃、隠し持っていた凶器での攻撃。もちろん、他にもちゃんとした技は使うけれど、ほとんどが反則技だ。
「加納この野郎……オラァ!」
「カイ、ストップ」
リングの外から先輩レスラーであり社長である吉村が俺を止めた。
一緒にリングに上がっていた加納が心配そうな顔をして俺と先輩を交互に見ている。
「カイ、どうした? 集中できてねえぞ」
「あ、いえ……スミマセン」
「怪我するから、お前ちょっと降りてろ」
「はい……スミマセン。筋トレ、してます」
俺はリングを降りて、道場の隅にあるダンベル置場へ向かった。
あれから練習中も筋トレをしていても、飼育クラブで財前にされたことが忘れられなかった。
あの時剃られた下の毛が少し生えてきて、パンツの中でチクチクと肌を刺激する。そんな痒みすら、あの時のことを思い出す引き金になる。
あと1週間ほどで、また試合続きの毎日だ。
このままでは集中できない。こんな状態では、先輩が言うように怪我や事故につながってしまう。
いや、それはただの言い訳だ。
俺のからだが、財前からの責めを求めていた。
※
『来てしまった』
真っ黒な鉄製のドアの前に立つ。前回と違うのは、今から何をされるのかが分かっていることだ。
インターホンを鳴らすと前回同様、財前が出てきた。
「高倉様……どうぞ中へ」
財前は微笑んで俺を中へ招き入れる。あの応接室のような場所へまた通されると、財前と向かい合わせに座る。
「ご入会、ご検討いただけましたか?」
テーブルの上にはもう契約書と思われる書類とボールペンが置いてあった。
「えっと、その前に質問なんですけど。財前さんは、お試しだけですか?」
「まあ、基本的には、そうです」
「あの俺……財前さんに飼育されたいです」
「私に、ですか」
「はい。財前さんでは、ダメですか?」
「駄目、ではありませんが、私の飼育方針は確認せずよろしいので? 確か以前見ていただいた飼育人の一覧には載せておりませんでしたが」
「外見が変わることを求められない限り、大丈夫です」
最低限の要望だけ伝えると、財前は「ああ」と頷いた。
「ボディーピアスや刺青、ですか。それについては、私もそれらはあまり好みませんので、ご安心ください」
財前が俺の座っているソファーまで近づいてくる。
「ただ、私は高倉様のアナルが女性器になるよう飼育しますよ」
唇に財前の人差し指がむにっと当たり、下唇を軽く摘ままれる。その感覚にすらゾクゾクと腰が震える。
「それでも、私に飼育調教されることを、望みますか?」
「はひ……」
唇から指が離れた。
「では、この契約書にサインをお願いします」
黒革のバインダーに挟まれた書類とボールペンを渡される。俺は震える手で契約書にサインをした。
「これで、私はあなたの飼育人となりました。……カイ、今すぐその服を脱ぎなさい」
「あ、の……財前さん?」
「下の名前で呼びなさい」
「ま、正臣さん?」
「そう。さあ、早く服を脱いで」
正臣の命令通り、着ていたジャージのジッパーを下ろし、ラグランのTシャツを脱ぐ。
まるで色気のないストリップだが、正臣はそれをじっと見ている。
その場ですべての服を脱ぎ終えると、正臣が笑った。
「もう、勃起してるね」
「俺……」
「こっちへ」
正臣に言葉を遮られ、プレイルームへと向かった。
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