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第13話

 母がいた。優しく俺に笑いかけている。 『カイ、かわいい私のカイ。かわいい女の子』 『おかあさん、僕はどうしてスカートなの?』 『あなたは女の子なんだから、スカートをはくのは当たり前でしょう?』 『おかあさん、僕は男の子だよ?』 『いいえ、あなたは女の子よ……』  ああ、そうだ。母は女の子の俺が好きなんだ。だから俺は、女の子でいなくちゃいけないんだ。 『うん、そうだね。お母さん』  笑顔だった母の顔が歪みだし、俺を睨み付ける。 『なんなの? その醜い姿は』 『え……?』  少女のようだった俺の姿は今の太く大きな体になっていた。 『そんな醜いアンタなんか、大嫌いよ』 『お母さん……ごめんなさい、ちゃんと女の子になるから! だから、捨てないで』  俺が大きくなったから、お母さんは俺を愛してくれなくなった。  施設で過ごすあいだ、ずっと俺は愛に飢えていた。 「お母さん……!」  目が覚めると、とてもあったかい。  すぐそばに正臣がいる。 「正臣、さん」 「うなされていたね」 「昔の、夢を見たみたいで」  そう言うと、正臣が俺を抱きしめた。 「カイ、もう飼育ごっこはやめにしよう」  その言葉に、期待した。 「正臣さん、それって」 「ごめんね、カイ」  あの幻聴は、本当だったのだろうか。期待を込めて見つめると、正臣は悲しそうに笑っていた。 「契約解消だ。もう会うのもやめよう。もし望むなら、別の飼育人を紹介するので」 「なんで? 俺が、正臣さんを好きになったから?」 「そうじゃない。そうじゃないけど……いや、もうここには、来てはいけない。いいね?」 「正臣さん、あなたも俺を捨てるんですか? 俺を、愛してくれないんですか?」 「ごめん、カイ」  全身が一瞬で冷えていく。まるで氷水を頭からかぶったようだ。 ※  一人暮らしのワンルームで一日中、少し前みたいに持て余したからだを自分で弄ったり、スマホで動画を見たり、SNSでエゴサをする。  エゴサをしたのは久しぶりだ。  前は数件しかなかった俺についての投稿は、いまはとても増えていた。  SNSに投稿された、ファンが撮った写真を眺める。 「これ、本当に俺かな」  自信に満ちた顔だった。  こんな顔ができるなんて知らなかった。  正臣と出会って、俺の人生は変わった。 「正臣さん……っ」  俺は財布とスマホをボディーバッグに入れて家を出た。  いてもたってもいられなかった。  この時間ならまだ家にはいないだろう。  そうなれば行先はあそこしかない。

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