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第2話

「ああ、腹減ったなー」 弓道場からの帰り道、前を歩いている悠之介が腹に手をやりながらそう呟いた。 「今日は団子屋に寄らんぞ。昨日も寄っただろう」 心身鍛練のための弓道も、帰り道に毎日寄り道していては鍛錬にもならぬと栄之進は やんわりと釘をさす。 「えー今日は行かないのかあ」 後ろを振り向いて栄之進を見ながら悠之介は口を尖らせる。 「そういえばお前、(ゆがけ)が傷んでなかったか」 ※弽…弓道において使用される弓を引くための道具。 鹿革製の手袋状担っており、弦から右手親指を保護するために右手にはめて使う 「親父殿のだからなー、確かにだいぶ傷んでたなあ」 「ばか。弽は行射の良し悪しに直接関わるぞ。 長年使い込まれて射手に馴染めば一生涯ものだ。お前の専用のものを新調してもらえ」 「へいへい。栄さんは弓道のことになると熱くなるもんなあ」 栄之進を見ながら、悠之介が笑う。 「ここは毎年、クチナシが綺麗に咲くね」 純白の花を咲かせて強い香りを漂わせたクチナシを見つけ、悠之介が近寄った。 「クチナシは抗炎症作用、鎮痛などの効能があってね…」 延々とクチナシについて語り始める悠之介に苦笑いする栄之進。 薬草に詳しい悠之介は道端で草花を見つけては語り出す。 武士より御薬園(おやくえん)で勤めた方がよっぽど役に立つのではないかと笑う。 ※御薬園…江戸時代に渡来植物の育成及び薬種の生産研究を行なっていた 初夏の爽やかな風が二人の間をかけてゆく。 (このままいつまでもいられないだろうけど、せめて今の間は側に) 栄之進はそう願わずにはいられない。

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