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第6話
それから間もなくして、悠之介が長崎へと発つ日が決まりあっという間に前日となった。
夏の暑い日だった。
「いよいよだな」
栄之進が縁側に座り、鳥を見つめながら横に座る悠之介に語りかける。
「そうだね、今更ながら武者震いするよ」
はははと相変わらずの屈託のない笑顔を向けた。
「…文を、くれるか」
栄之進の言葉に、悠之介は少し驚き、目を細めて微笑んだ。
「栄之進がそう言ってくれるなら」
あの日交わした誓いは忘れない。
ゆっくりと互いの手を繋ぎ、見つめあいながら笑いあった。
その日の晩遅く。
「栄之進様…!!大変ですッ…!!悠之介様が…!!」
中間の太吉に叩き起こされ、何事かと栄之進は飛び起きた。
「大変なんです…!!」
絞り出す様な声と、大粒の涙を流しながら必死の形相でまくし立てる太吉に
栄之進は言葉を失った。
「辻斬り…、だと」
悠之介の家から聞いた事情によると
夜分、悠之介の屋敷の前で若い女性が辻斬りに遭遇し、まさに斬られる寸前のところを居合わせた悠之介が助けに入ったという。
女性は命からがら助かったのだが、悠之介は斬られ、深手を負ってしまいそのまま目を開けなかったという。
(何で…)
武術は得意ではなかったはずだ。自分が辻斬りに勝てるとでも思ったのか。
それとも女性を助ける為に咄嗟にかけていってしまったのか。
栄之進は泣き崩れる太吉や母親を尻目に呆然としていた。
(まさか…)
そうでもいいと、思ったのか。
長崎行きも、栄之進さえも。
(生きて行く意味がないならと思ってしまったのか)
遠くで雷の音が聞こえる。
もう夏も終わろうとしていた。
悠之介の喪が明ける頃、栄之進は縁談を受け、半年後に祝言を挙げた。
悠之介の分まで生きて
この家を継いで一生を終える。
来世は必ず一緒にいるとあの日の誓いを胸に
生き抜くのだ。
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