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第7話

(またあの夢か) 夢から目覚めて北川は上半身を起こす。 遮光カーテンを開けると燦々(さんさん)と太陽の光が部屋に注ぎこまれた。 北川には最近よく見る「夢」がある。 月1回、多い時は3回くらい見るのだ。 決まって自分は袴を履いて刀を刺している武士。 目覚めたあとは内容を大抵すぐ忘れるのだが、何故か内容が記憶に残ったままの時もある。 庭に植えられた大木。サワサワと風の通る音。 道端で咲く、純白の花… 「それはマスター、前世の記憶とかってヤツよ」 カウンター越しに客である津田が、ギムレットを飲みながら笑う。 北川はバーを経営している。常連客もついてなかなかの繁盛ぶりだ。 タバコの煙が香る店内では北川の振るシェイカーとジャズの心地よい音が響く。 「私はそういうのは思ってないんですけどね…」 もともと無宗教派の北川にとって胡散臭い話は信じる気にもならない。 「でもさあ、そんなに頻繁に見てて覚えてることもあるんだろ?よほど心に残って…」 「時代小説の読み過ぎですかね」 微笑みながらシェイカーを置いた。 (やれやれ…) 営業時間も終わり、一息ついて店を出た。 変な夢のお陰で多少、寝不足だ。 店の鍵を掛けながら、つまみのナッツが少なかったことを思い出す。 買い出しに行って帰るかと足を向ける。 北川が帰宅する頃は朝だ。 サラリーマンや学生たちが欠伸をしながら交差点で信号待ちをしている。 毎日見るこの風景が北川はなんとなく好きだった。 昔からいろんな顔の中に、何か見つけられそうだと思っていた。 それが何なのかは分かっていなかった。 信号が青になり、一斉に人が動き始めていく。 気怠そうに歩く人、セカセカと歩く人… 正面から歩いてくるその人混みの中で、一人の男性と目が合う。 (あれ…) 一瞬にしてどこかで見た顔だと感じた。 ただ誰かは思い出せず、そのまますれ違う。 振り向くと男性も振り返ってこちらを見ていた。 だが二人は立ち止まることなく交差点を後にする。 (何だろうか) 胸がやけにざわついた。

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