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第8話

毎週水曜日は酒の配達日だ。 (今日は遅いな…) いつもなら17時には納品にくる年配の配達員が中々来ない。 ジンが切れているのでこのままだとマズイ…と思ってる矢先に配達員の声がした。 「すみません、遅くなりました」 いつもより随分と若い声だなと思いつつ、北川がドアを開けると若い男性がケースを 持って立っている。 「あ、どうも…」 北川が驚いたのは先日交差点で目が合った男性がそこに立っていたからだ。 男性はそんな北川の様子を気にもせず、黙々と作業をすすめていた。 「こちらに置いておけば良いですか?」 話しかけられて我にかえる。 どうも最近は不思議なことばかり起こるものだ、とため息をついた。 翌週も配達に来たのは彼だった。 酒の納品をチェックしながら、彼に北川は話しかけていた。 彼は五十嵐彰光(いがらしあきみつ)、市内の医大生だった。 腰を痛めてしまった年配の配達員のかわりとしてバイトをしているという。 初めは口数が少なかった彰光だが、北川が何かと話しかけてくるため、打ち解けてよく話をするようになっていた。 自分より少し背の高い彰光は可愛らしい顔をしていたので、モテるだろうなあと北川は ぼんやりと思った。 それでも彼女はいないという。 「恋愛とかめんどくさくて」という彰光の言葉に北川は最近の若者だな、と苦笑いした。 そう言う北川も恋人は数年不在だ。 話をするようになって一か月。 ふと北川が思い出したのだ。 「以前、彰光くんに会ったことあるよ」 酒のラベルを整えながら彰光に問いかけた。 「ほらあの大通りの交差点で」 目が合ったよね、と北川が問うと彰光は少し笑った。 「そういえば北川さんでした」 あんまり覚えてなかったのか曖昧(あいまい)な感じに答えた彰光にふと違和感を感じていた。 「それよりも北川さん。もっと前に僕はあなたと会ってるんですよ」 「え?」 納品これで今週は終わりです、と空のケースを持ち上げながら北川に微笑んだ。 「早く思い出してください」 そう言い残して彰光は店を後にする。あとに残された北川はぽかんとするしかなかった。 (どうなってるんだ…)

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