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<誠>3:二人だけの思い出も世界に発信?

その後も智紀の「撮影」は止まらなかった。 とにかく「撮影」ばかりだ。 お前はプロのカメラマンか!とツッコミを入れたくなるほど。 何度もいろんな角度を撮っていた。 以前に比べても撮影する時間が長い。 「おい、焼肉冷めちまうぜ」 「あと一枚!!」 今日は二人で近所の焼肉屋に来ていた。 そこでも「撮影会」が始まるもんだから、店員が明らかに引いている。 行きつけの店だけに、何だか恥ずかしい… 「早くしろよ、お前。何枚撮ってんだ」 俺は少しイライラしながら、手元のカルビを口に入れた。 「わかってるって。美味しい?」 写真を撮りながら、こっちの顔も見ずにそう聞いて来た 最近はいつもそうだ。 智紀とデートしているのか、カメラマンと撮影にきているのかわからない。 「おっしゃー!撮った!」 ようやく焼肉を純粋に食える、とホッとしたのもつかの間、今度はスマホとにらめっこ。 SNSにUPするための写真を選んでいるのだ。 (ほんと、何しに来てんだろう) こんなに美味しいカルビやロースを目の前にして食べないなんて。 網の上の肉は焦げていくし、焦げから避難させた皿の上の肉はどんどん冷めていく。 美味しいものは口にして身体で感じるものだろうに。 (…冷めてきたのは肉だけじゃないのかもしれない) 口にしたカルビは、なんだか全く味がしなかった。 *** 智紀のアカウントは以前本人が教えてくれたのでたまに見ていたのだけど、最近は全く見ていなかった。 だいたい何をUPしたか行動で分かっていたし、俺自身がSNSがそんなに好きではない。 ただ、今日は帰りのバス停でバスが遅延していたから暇つぶして覗いた。 (…え) 驚いたのはそのUPの件数と写真たちだ。 こんなにたくさんUPしていると思わなかったので面食らった。 すげーなアイツと思っていたんだけど… 色々見ているうちに、どんどん足の先からひんやりしてきた。 これもあれもそれも。 二人で行ったところだらけ。 二人で笑いながら楽しんだところだらけ。 特盛りの食べきれないロースかつ丼 浮き輪で波に揺られてる俺 美味しかったかき氷 砂辺に落とした、花火大会のイカ焼き 全部記録されて「世界中に発信」されている。 二人だけで楽しんだ出来事。 アイツはなんで、みんなに見せるんだ? 足元がぐらんと歪む。 気がつくと何故か俺は泣いていた。 もうダメかもしれない。

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