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 学園中から嫌われていると言っても生徒会や風紀の周辺からは、いつも励まされて応援されている。  クラスで話す相手がいないと思っていたらそれとなく会長の親衛隊に所属している隣のクラスの人や同学年の風紀委員がやってきてくれる。  多少、同情心が透けていて惨めになるけれど、グループ分けの際にひとりぼっちにならないのは助かっている。  ただ会長も風紀委員長も俺よりも年上なのでふたりが卒業したあとが少し怖い。  副会長を俺の心の支えにするには失礼ながら頼りない。   「書類って、これかな」  リビングのソファーの横に落ちていた大判の封筒を拾い上げる。   副会長はなぜか奥の部屋、風紀委員長の私室に入ろうとしていた。  人の部屋を勝手に探ろうとする神経がわからない。 「なにしてんですか、あなた」 「冬式委員長の部屋に入れるなんて今後ありませんからね。個人部屋の中も見たいと思うでしょう」 「ちょっと、それって人としてどうかと思います……」 「人として!? そこまでですか? でも、栄司くんも気になるでしょう。聞いていますよ、寝室は入っても冬式委員長の個人の部屋には入ってないって」 「親しき仲にも礼儀ありじゃないですか。鍵もついてますし」 「カギ!? 怪しいですね。怪しさしかありませんね。中を見るしかないですよ。さあ、行きましょうか!」  本当なら副会長を止めるべきだろうが俺は見守ってしまう。  鍵が外れるところが見たかったのかもしれない。  部屋の中というよりも鍵が気になる。  ボタンがあったら押したくなるように鍵があったら外したくなる。  副会長が数字を試していくのを横で見ているのは少し楽しかった。  俺が自分から部屋を開けようとしているわけじゃないから罪の意識もなく他人事として見ていられる。 「開きました!! 案外簡単なナンバー設定です。冬式委員長と栄司くんの誕生日を足した数字でしたよ」 「教えないでください」 「これでもう、栄司くんも共犯ですね。やーさがし、しましょう~」  歌うように家探しと口ずさむ副会長の後ろについて部屋に入る。  副会長を放置することは出来ないというよりも俺も少なからず興味はあった。    部屋に鍵がついていたこと自体を不思議に思ったことはない。  風紀のトップの部屋なので一般生徒である俺が見てはいけない書類などもあるかもしれない。    この学園は生徒に自治を任せているので風紀としての責任はなかなか重い。  警備員や教師を介入させずに生徒間だけで問題を解決できなければ生徒会を含めて各委員会の在り方の失敗になる。  生徒への信頼ではなく勉強だけができても仕方がないという学園の創始者の意向らしい。    だから俺は部屋に鍵がかかっていることも部屋に入ったことがないことも違和感を覚えることもなく過ごしていた。  彼は俺を大切にしてくれている。ちゃんと現状に満足していた。  何かを隠しているなんて思ったことはない。 「うげっ」  思わずといった感じで副会長から聞こえたらしくない濁ったうめきに反応できない。  いつもなら下品ですねと笑ったかもしれないが俺は完全に固まっていた。    目の前のことが信じられなかった。  壁一面に貼られた写真。  何もかも見なかったことにしたい。 「これって、会長ですよね?」  確認するように吐き出された言葉は俺と副会長、どちらのものだっただろう。  完全に引きつった顔の副会長の顔を見ながら、きっと俺も同じ表情だと現実逃避するように思った。  部屋中に俺の遠縁にあたる会長の写真を貼り付けている恋人は果たして俺のことを愛してくれているんだろうか。  俺は風紀委員長の何を信じるべきなんだろう。

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