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 静寂を打ち消したのは副会長が手を打ち鳴らしたからだ。  音に驚いてまばたきをすると少し冷静になれる。  ぎこちない動作で副会長が俺を見て無駄に首を横に振る。   「落ち着こう、まずは落ち着きましょうか。落ち着こう。うん」 「落ち着いてないのは副会長さん、あなたです」 「栄司くんのツッコミはいつでも的確ですね。尊敬に値します。その通り、私は今まったく落ち着いておりません」 「知ってる」 「えぇっと、……なんと言いますか。ごめんなさい」  魔の部屋から出て鍵を閉める。  副会長に謝られても見てしまった事実は消えない。 「青髭の花嫁の気分です。花嫁は栄司くんかもしれませんけど……」 「吊るされた死体を見たって?」  金持ちの青髭のもとに嫁いだ娘は鍵の束を渡される。  どこにでも自由に鍵で部屋に出入りしてもいいが一つだけ入ってはならないと注意される部屋がある。    娘は好奇心からその禁止された部屋に踏み込んで先妻の死体を見つけてしまう。    青髭の以前の妻たちは行方知らずになっていた。  おそろしいと噂される青髭だったが娘を口説いてきたときは優しく紳士的で残酷な姿はすこしも感じなかった。  娘は鍵を血だまりに落としてしまい汚れてしまったことで青髭に禁止された部屋に入ってしまったことがバレてしまう。  約束を守らなかったことに激高した青髭に娘は殺されそうになるが兄弟によって助けられる。  娘は青髭の遺産を手に入れてハッピーエンドという物語。  童話の解釈やペルー版、グリム版などでいろいろとあるが大筋として開けるなと言われた部屋を見るとロクなことがないという話だ。浦島太郎の玉手箱に通じる教訓だ。    兄弟が青髭に撃退されないバージョンを知っている身としては青髭はホラーの代名詞だ。  禁止された部屋の中に死体があることも鍵についた血のシミが消えないこともおどろおどろしい。 「そういえば冬式委員長と会長って怪しいって噂があったような、なかったような」 「初耳」 「栄司くんの耳に入っていないということは会長が気を利かせたかな?」 「……つまり、どういうこと」

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