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六
「会長は強敵だ。栄司くんは立ち向かうのか? それとも諦めるのか?」
「心は半ば折れたようなもんだけど……そう言われるとちょっとムカつきますねー」
「栄司くんは絶望顔よりもちょっと性格悪そうな薄笑いが似合ってる」
「まったくにして褒められている気はしないから嬉しくない。けど、元気づけようとしてくれた心意気は受けとるよ」
もし俺が騙されて弄ばれたならひと泡吹かせてやりたい。
ふたりが俺のためを考えた結果がこれならふざけんなと殴りつけたい。
今までの時間が全部ニセモノなら、それぐらいしても許されるはずだ。
「副会長さんよ」
「なんだい、なんだい栄司くん」
「今日はあなたの部屋に泊っていいですかい」
「そうですなあ……どうしましょうかねぇ」
ふふっと笑いながら顎をなでる副会長は何キャラかわからない。
芝居がかった仕草は笑いを誘うが今はそれに乗れる精神状態でもなかった。
やさぐれた気分にならないのは無理だ。
「ここで即答しないところが副会長さんのダメなところだと思うわ」
「和ませてあげようと思ったんですよ、本当」
「心遣いってやり慣れていない人がすると伝わらないどころか大炎上するから控えて」
「……じゃあ、お尻の穴の写真を撮らせてください。それで手を打ちましょう」
ツッコミどころしかない発言に一瞬だけ脳裏に焼きついた部屋の壁一面の写真が消えた。
「お尻をこう、自分で開いて……見せつける感じで」
「なんでって疑問を口にすることは許されてるのかな、俺」
「親しき仲にも礼儀はあるものですね? つまり私は栄司くんから何かをもらいうけて部屋に泊らせなければなりません」
「そこは困ってる友達を助けるんだからさぁ……」
「あとで借りを返してもらうよりも即日清算がお互いの関係を円満持続に導きます、きっと」
根拠のない副会長の言葉ではあるが、タダで泊めてくれという俺が間違っていたかもしれない。
「でも、羞恥プレイすぎる」
「栄司くんが勃起をしなければセーフです。写真がイヤならスケッチで済ませましょう。ただし、三十分以上はお尻出しっぱなし!」
「クロッキーってことで三分から五分でがんばってくださいよ、そこは」
「速写といっても十分か十五分はほしいですよ?」
「二十分でどうですかね」
「では毎日二十分間、私は栄司くんのお尻を描くということで契約成立です。荷物をまとめて私の部屋で待ってて下さい。冬式委員長には『あんたマジきもいから』と伝えておきます」
「いろんなところを敵に回そうとする姿勢、最高にクレイジーで副会長のことを尊敬しかできません」
「友達のために全裸になることぐらいわけないんです!」
「一肌脱いだらすぐに着こんでください」
「やりすぎないようにケンカ売っときます!」
人の話をまったく聞かない副会長だ。
でも、これが副会長だ。いつもと変わらない俺の友達だ。
「栄司くんの友人代表として冬式委員長のことをぎゃふんと言わせてやりますから、泣かないで……」
笑わそうといつものやりとりをしてくれる副会長の心遣いがあたたかいから胸の痛みを自覚してしまう。
疑問と戸惑いが責める気持ちと後悔にゆっくりと変化する。
誰かにすがりつきたいようで一人でいたいような不安定な気分。
副会長はこれから校舎に戻らないといけない。
生徒会の仕事があるだろうし、風紀に書類を届ける役目がある。
泣いている俺に足止めを食らってはいられない。
それでも、友達として泣き止むまでそばにいてほしい。
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