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「もう栄司に会いたいから今日はおわり~」
「いいから座ってろよ」
「冬式もさっさと帰ろうぜ。それか部屋の鍵くれ」
「せめて副会長が戻ってくるまで待て」
「はあ? 冬式が書類忘れたんだろ。もう明日でいいじゃん」
天然なのかこういう策略なのか生徒会、風紀ともに視線がオレに集中してくる。
ここでオレが会長であるクズを引きとめられなかったら風紀から責められ、引き留め続ければ不機嫌な会長に生徒会の連中が辟易する。
何一つとしてオレが悪くなくても不満がオレに向く構図が瞬時に作り上げられた。
こんなことが度々あるから恐ろしい。
悪いのはどう贔屓目に見ても会長を名乗るクズなのにこいつのワガママを拒絶する方が悪人になるのだ。そういう空気をクズは簡単に作り出す。
人生とは一体何なんだろうと考えたくなるほどに理不尽だ。
それともオレと栄司だけがクズの魔法が効かないだけで、周りはクズがクズ行動をしても許さなければならない強制力でも働いているんだろうか。洗脳魔術か。怖すぎる。
「冬式が悪いんだから俺が我慢するとかおかしいだろ」
クズが忘れ物をしても誰も責めないが、誰かが忘れ物をしたらクズは容赦なく責めてくる。
人間としての器が小さいどころか、きっと存在していない。クズは人ではないので人並みの心もない。
栄司は優しいから頼めばすぐに持ってきてくれるから頼まなかった。
嫌みの一つも言わずに「風紀の仕事を頑張ってください」と微笑んでくれることが簡単に想像がつく。
考えただけでオレは幸せな気分に浸れるが、だからこそ栄司にはオレの部屋という平和な場所で心穏やかにしていてもらいたい。
学園の生徒たちの一部はクズのクズさが伝染していてクズ的な行動しかしない。
風紀として更正プログラムを叩きつけてやっても伝染するのだ。
とあるクズが真人間になったと思えば別のやつがクズになる。
クズスパイラルあるいはクズのゾンビ化だ。
クズに交わればクズになる。
学園のクズの根源であり発生感染源のような会長を名乗る目の前の巨大なクズをどうにかして社会的物理的に抹殺してやりたい。
オレの願いは一般的な感覚を持っているなら誰もが思い描くものでそう過激じゃない。
普通に生きている真っ当な人間はクズを嫌う。
「戻りました」
走ってきたのか副会長が息を乱しながらやっと戻ってきた。
遅いと言いたいところだが、生徒会の中でも比較的常識人である副会長に「ありがとう」と礼を言う。
オレが悪かったこともあるので、嫌な空気の中に放置されたが責められない。
栄司と友人だから話しこんでいたのかもしれない。それは予想がついていたことだ。
それでも書類を自分で取りにいかない、栄司に持ってきてもらわないとなると副会長に頼むしかない。
ほかの人間はクズすぎて信用できない。
「あ、ちなみに栄司くんは毎日私にお尻を捧げてくれることになりました。二十分の制限は厳しいですが徐々に馴らして長引かせようと思っています」
副会長の言葉が理解できなくて書類の入った封筒を受け取り損ねて落下する。
今回、生徒会と風紀で防犯カメラの位置変更の話し合いをするはずだった。
校舎のカメラの位置が書かれた機密な書類だったのだが、朝に栄司といちゃついていてソファに置き忘れてしまったのだ。
早朝の幸せな記憶に意識を飛ばしているオレに副会長が淡々と告げる。
「栄司くんは私の部屋で寝泊まりしますが、会長を私の生活圏内にいれることはありませんのでご了承ください」
「はあ!? 俺、センパイなんだけど?」
「だから? 先輩だからなんですか? 先に生まれたら後輩のプライバシーや自由を奪ってもいいとでも? 逆に後輩の応援をするのが先輩ってものですよね」
「栄司と俺はセットって決まってるの!! 生意気言うなっ」
「私の部屋に栄司くんがいることは私が許可しましたが、会長がいることは認めません。前もって教えてあげるという親切に『丁寧にありがとう、最高だね』と涙を流しながらの感謝の言葉はまだですか?」
「めんどくせー!! この子、めんどくせー!!」
会長に媚を売らないのはいつものことだが副会長がここまでガンガン押しているのは初めて見る。
眼鏡の奥の瞳が不快そうにゆがんでいる。会長が不愉快な存在なのは今に始まったことじゃないが、苛立ちはオレにも向かってきている。何があったと言うんだ。
「栄司に何かあったのか」
「何もありませんよ、青髭さん」
「……ヒゲが濃いか?」
自分の顎を触るが髭の感触はない。朝に剃って夕方に目立つタイプじゃなかったはずだ。
まったく分からない副会長の怒りと栄司の行動。
「ご自身のお部屋の有り様はもちろんご存知ですね?」
言われて血の気が引いた。
栄司が副会長の部屋に行き、副会長がこうまで怒っているということは見たのだろう。見られてしまったのだ。
どうやって言い訳をしようか頭を抱えながら栄司のお尻についての詳細も気になったオレはクズに感染してきたかもしれない。
栄司というワクチンがオレには必要だ。
このままでは自分の都合ばかりで生きるクズになり果ててしまう。
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