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会長の写真を使いたいというのは夜のスパイス以外にも新聞部や情報整理委員会など様々な部署がある。
それらは当然、自前のカメラマンを用意しているのだが、学校行事に使用する写真も含めて会長に関わるものはすべて栄司の撮影だ。それ以外、認められていない。
どう考えても誰よりも会長に特別扱いされている栄司は周囲から反感をいだかれる。会長が放置することによって苛立ちは蓄積される。
栄司を必要以上にかわいがる会長の姿が周囲を必要以上に軽視している、そう見えるために起きる悲劇だ。
あるいはクズが意図して生徒たちの不満を栄司に集めているのかもしれない。
クズは頭がおかしいが頭が悪いわけじゃない。
印象操作は意識的か、無意識か、微妙だとはいえ、絶妙な形で日常的に行っている。
洗脳魔術の使い手だ。
だからこそ、生徒からの人気をクズは集めることができる。
どれほどの無茶をしていようとも、理不尽を押しつけようとも「彼が言うなら仕方がない」という空気を作り上げ、周囲に共有させる。なにをしても自分が正しいという論調に持っていく。
自分の見せ方をわかっているんだろう。
もし、栄司が会長を好きならオレは負けるしかない。
セルフプロデュースが完璧なクズに一般的な常識を持ったオレが勝てるわけがない。
嘘は吐かず、自分がクズだという事実は伏せて、会長というクズは自分の良さをアピールする。
見破ることができる人間はそういない。クズさに気がついても手遅れになるだろう。
捕まえた魚にエサを与えないタイプなので、すぐにあいつのクズさに気がつくかもしれない。だが恋は厄介なものだから、我慢して耐え、頑張ってしまう。無駄な努力だと頭の隅で分かっていても頑張り続けようとする。
自分の身を削ってでも相手に尽くす、それが愛だと誤解してしまう。
クズの信者は自分が信者になり果てていることにすら気がついていないのかもしれない。
栄司は出会った頃も今もまたクズのことを親戚のおにいちゃんぐらいの位置にしか見ていない。
クズ目線で言うと余所余所しい。
風紀の視点で言えば当然の自衛。
恋人であるオレからすると少し安心する。
繰り返すが栄司が会長を好きならオレは負けるしかない。
オレとクズに共通点などないのだ。
何があってもオレはクズになる気はない。
自分勝手な言動で振り回されたいという願望が栄司にあってもオレはそれを満たしてやることはできない。
叩かれた頬の赤みは翌日には見えなくなるかもしれないが、栄司の心からすぐに消え去るとは限らない。
吐き出された悪意の言葉が永遠に忘れられない可能性だってある。
そこに喜びを見出す人を批難したりはしないがオレは理解できない。
傍にいるのなら感性は似ていないとつらいだろう。
栄司はそういった点ではとても普通だ。
殴られれば痛がるし、悪口は不愉快に思う。
クズの作る最低な空間は決して栄司にとって楽しい時間ではない。
そういった当たり前の価値観を栄司はきちんと持っている。
けれど、遠縁である上に撮影係に任命され、顔を合わせれば一方的にかわいがられるのでクズ自体からは逃げられない。
会長に対して思い入れがない人間からすると一方的なサンドバックにされている栄司は不憫に見える。
初めて顔を合わせたときからオレはずっと栄司の立ち位置に同情しながら普通の感性に共感していた。
栄司が会長というクズを好きになるわけがないという確証を前提にして、オレは栄司のことが好きなのかもしれない。
だが、遠縁ということもあって、栄司はクズから受ける迷惑も面倒もすべてをまるっと許容する。
許しは愛に見えてオレを不安にさせることもある。
その結果があの部屋の有り様だと言って栄司は納得してくれるだろうか。
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