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今日ほど風紀委員長であることを呪ったことはない。
今すぐにでも栄司に会いたい気持ちをおさえて、副会長の持ってきた資料を基にして、予定通りの生徒会と風紀の合同会議を行う。
頭が働かないせいで無駄に時間もかかってしまった。
生徒会役員から舌打ちと陰口を叩かれるが、オレの不安は栄司にどう思われているかというその一点だけだ。
じれったい時間も決めることを決めれば終わる。
会議が終わり自分の部屋にさっさと一人で帰ろうとする副会長に土下座した。
誰にどう思われようともオレの熱意が副会長に伝わればいいとしか考えなかった。
プライドを大事にして、大切なものを後回しにして何もかもを失った人間をオレは風紀委員長という立場で見てきた。
トラブルの解決はスピーディーでなければならない。
早ければ早いほど傷は早く治るものだ。
なんとか土下座で粘りに粘ってオレは副会長の部屋に入れてもらった。
ちなみに会長は百回ぐらい栄司に向けて電話をしたら電源が切られたらしい。
副会長の部屋の中に漂う夕飯の香りにお腹が鳴る。
テーブルには二人分の料理が置かれている。
事前にオレが来るとわかっていながら二人分だということに泣きたくなる。
絶望的な気持ちになりながら栄司と向き合う。
先に口を開いたのは栄司だった。
表情はいつもとは違い他人行儀だ。
それがまたさみしい。
「勝手に部屋の中に入ってしまい、すみませんでした」
「いや……」
「カギを開けたのは栄司くんではなく私です。そして、すぐに想像できる番号にしたのは冬式委員長の不手際です。そうですね?」
「あぁ……そうだな。オレが悪い」
副会長が栄司を庇うような言葉を口にするのがなんだか嬉しかった。
変人であるのは間違いないがイヤな奴じゃない。
絶賛大ピンチにもかかわらず、こわばった顔の栄司が副会長の言葉で表情をやわらげてくれたことに感動する。
栄司はなんだって簡単に受け流しているように見えるが、あくまでもそう見えるだけでしかない。
誰かに理不尽に叩かれた頬の傷はときが経てば見えなくなる。
傷がなければそれに伴う感情もまたなかったかのように見えにくく隠してしまう。
今回のことを栄司が許してくれたとしても見えないだけで、心の底で感情は蓄積していく。
それを思うと悲しくてたまらない。
栄司の中で芽生えた感情がどんな種類のものだとしても裏切られたと思って傷ついたのは間違いない。
「オレは栄司がすきだ」
口からこぼれたのは継ぎ接ぎだらけの本音を隠す言い訳じゃなかった。
自分の心の狭さや嫉妬心を格好良く説明できるわけがない。
でも、言い訳をしたいと思う理由はこんなにも単純ないつでも心にある一つの感情だ。
それだけは分かってほしい。
「栄司を好きなことだけは信じて欲しい」
自分をよく見せるために事実をごまかそうとするかもしれないが、オレが栄司を好きであることは本当だ。
栄司の作品を辱めたかったわけじゃない。
針でめった刺しにしてたのは、会長が死ねばいいのにと思っていただけなんだ。
「……信じてないわけじゃない。でも、わかんなくなって……うたがいたくもなって」
それはその通りなのかもしれない。
視線を下に向ける栄司の姿に胸が締め付けられる。
距離を置きたいと栄司の口から出てきそうな気配を察知して、思わず引き寄せて、その唇を自分の唇でふさいだ。
副会長が「私の部屋だってわかっていますよね!?」と叫んでいるが構っていられる余裕はなかった。
自分の心の小ささを理解しながら戸惑いながらオレの腕の中にいてくれる栄司に感動する。
振り払われたりしなかったことがこんなにも嬉しい。
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