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十四

 ここまで来て誤魔化すわけにはいかなくても、俺から会長のことが好きなのかとたずねるのは精神的に厳しい。 「栄司くんと始終いちゃついておきながら、自室に会長の写真を貼りつける会長ストーカーさん? 栄司くんにはラブで会長にはライクだから許されるとかいう詭弁は結構ですよ」  バッサリと切り捨てる副会長の言葉に思いっきりいぶかしげに「はあ!?」と彼は叫んだ。  ちょっと声が大きい。耳が痛い。 「不名誉すぎる勘違いがある」 「かんちがい?」 「オレは栄司がすきだ」 「だから!! じゃあ、あの写真はなんですか!! さっさと私と栄司くんが納得のいく説明をしてください。イライラが止まりませんっ」 「副会長さんはちょっと落ち着け。ごはん食べてもいいから落ち着け」 「でも、栄司くん! 政治家の責任逃れの記者会見とか、私はきらいなんですよ。言質をとらせないように明言を避ける人を見るとそれだけで重罪人に見えてきます。犯人はおまえだっ」  副会長がストレスからスリッパでジャグリングを始めた。  料理の近くだ。  ほこりが気になるので、やめさせた方がいいだろう。 「……オレの部屋、見たんだよな?」 「懺悔をするならするで明々白々、一目瞭然、単純明快で理路整然としてくださいよ」 「副会長さんが四字熟語を並べ出したってことは、イエローカードだ。このままだと裸でフラダンスを踊らないと許してもらえなくなる」 「意味がわかんなくて怖い。過去に栄司が裸でフラダンス踊った可能性を考えるのも怖い」 「ともかく、あの……会長が好きじゃないなら、あの写真は、なんで?」  一度副会長が俺の気持ちを代弁するように疑問を口に出してくれたこともあって言いやすい。  副会長の苛立ちが高まっていることも俺の背中を押した。  出来るなら何も聞かずにやり過ごしてしまいたいなんて曖昧には済ませられない。  傷つきたくないから聞きたくないなんて言っている場合じゃない。    副会長が同席しているこの場でグレーゾーンなど存在しないのだ。    白黒はっきりしないと奇行に走る友人を放置するわけにはいかない。  俺が知らないといけないとか、俺のために聞き出そうと思わないでいるとだいぶ冷静になる。  期待はしすぎず、不安で耳を塞がず、冷静に判断しようと思えた。 「ストレス解消?」 「愛でることによって?」 「顔面を穴だらけにしてスッキリする感じの使い方……かな」  言いにくそうな彼はウソを言っているようには見えない。  俺と副会長は顔を見合わせた。  部屋の中をしっかりと見たわけじゃない。  壁に貼られているのが会長の写真だと確認して、副会長とふたりで退室して頭を抱えたのだ。  俺たちは写真の貼られた壁に近づいてもいない。 「嫌いな相手の写真を壁に貼るのはおかしいって言いたんなら、それはオレもわかる。……でも、あれを撮ったのは栄司だから、そういう意味では大切って言えば大切だ。けど、会長はムカつくからついつい写真をスクラップにしちまう」  想像しない方向からの告白に俺は頭が真っ白になった。  会長と風紀委員長として親しくしていると思っていた二人のまさかの関係。  思い描いていたものと正反対だ。 「冬式委員長……根暗ですね?」  眼鏡のブリッジをくいっと押し上げながら口にする副会長。その言葉に同意しながら心に失望感はない。良い意味での肩すかしを受けた、けれど腑に落ちることも多い。  彼がときおり「オレと会長のどっちが大切なんだ」と余裕なく詰め寄ってくることがある。  愛されているからこそ窺い知れる独占欲は、ほろ苦く甘い。 「えいじ」 「いいです。もうわかったんで、ごはん食べたら部屋の掃除をしましょう」  彼の捨てられた犬を思わせる情けない顔を両手を伸ばしてはさむ。  おもしろい顔になったので自然と笑えた。  緊張をほぐすのは笑顔が一番いい。

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