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十五

 いつでもこわばった俺を元気づけるように彼が笑いかけてくれていた。  目覚めてからおやすみまで、彼が俺に笑いかけない日はない。  怒って喧嘩してすれ違っても笑い合えてたら俺たちはここで終わりになったりしない。 「栄司くん、私は勘違いさせるような冬式委員長の言動を責め立てて泣かせたいですよ?」 「副会長の唐突なドS発言はなんなんだ」 「尊敬できない年上って気持ち悪いの代名詞じゃないですか。私、苦手です」 「もういいから、副会長さんは食堂に行って来なさい。俺たちはスーパーイチャイチャタイムに突入するからさ」 「栄司くんのお尻に免じて今回のことはこれ以上触れないでおきます。ですが、二度目はありませんからね」  副会長は「覚えておきなさい、筋肉尻」と彼に謎の罵倒をして去って行った。  元々、副会長にリクエストされて作った料理が肉を主体にしていたのでこうなることは分かっていた。    温めなおした料理を前に戸惑う彼に「副会長さんは温野菜好きの魚派で肉はあまりたべないんです」と教える。  最初から副会長は彼を断罪する気はない。仲直りの場を作ろうとしてくれた。  風紀委員長の部屋とはいえ、彼らが友人同士だからか俺がいるせいか会長が気軽に入ってきてしまう。  それでは話がまとまらないのはわかりきっていた。  会長がいる中でオレが彼に問いただせるわけがない。  副会長がいなければ写真の用途を聞けもしない意気地なしだ。  俺と会長を並べて俺をとるような相手を望むのはむずかしい。    確固たるルールの中にいる副会長を別にすると誰の味方になるかといえば、会長側に行くに決まっている。  それを責めることが俺にはできない。裏切りだと罵る前に納得してしまう。  俺よりも会長を優先しても仕方がないと経験から理解してしまう。  負けることに慣れた考え方は情けない。 「誤解させて、傷つけてごめん」 「会長が俺の敵になるなら負ける気しかしなくて、ビビった臆病者ですよ」  写真の一部が傷つけられていることも気づかないほどに冷静さを失っていた。  勝手に彼を奪われたと思った。  何もかもなくした気になった。  初めから何もなかったんじゃないのかと想像して、イタズラに傷を深めた。  戸惑って部屋から出ないで、きちんと観察したら気がついたことも、目を閉じて脳内から締め出そうとして見失っていた。 「オレも栄司が会長の写真持ってたら文句言うからお互い様だ」 「会長の写真はいつもポケットにあるけど……写真を投げてまわりがそれを拾ってる間に逃げるから」 「あ、あぁ……うん。そういう使い方なら、別に気にしない」 「俺もストレス発散に写真に八つ当たりしてるだけならいいっすよ? 壁の件」  ふと自然に砕けた自分の口調に彼と目を合わせて笑い合う。  何事もなかったかのように始まる夕食の時間。    ふたりだけで食事をするのは随分とひさしぶりだと気がついてショウガを利かせたはずの豚肉がどこか甘く感じた。  隠し味のハチミツを入れすぎたかもしれない。  それでも「おいしい」と彼が言ってくれるから成功だ。  テーブルの下で足をからませ合いながら微笑みあいながら食べるごはんより美味しいものはない。

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