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常識的にたとえオレが下手でも下手と言えないだろうし、あれこれと注文だってつけられない。
任せきりではいけないけれど相手のために出来ることも思い浮かばない。
そういう栄司の心境は透けて見える。
借りてきた猫が徐々に心を許してすり寄ってくるような距離感の縮み方。
どれぐらい近づいていいのかを学んでいくような栄司の姿がたまらなく股間にくる。
自分の言動が失敗していないか、間違ってないかと、うかがう気持ちが顔に出ていて、かわいくて仕方がない。
今では何とか、かんとか、説き伏せて、穴周辺に指でのタッチは許されるようになった。
それだってオレの発する空気を読んだからだ。
拒否できない空気、ダメと言えない瞬間というのがある。
最初は交際を公にするのもキスマークも拒否された。
根気よく問題をクリアして、なんとか栄司から許可を取り付けて今がある。
会長がいるのに風紀委員長まで手を出す不届き者という批難は今でも耳にする。だが栄司はオレの恋人だ。
外からいくら会長と仲がよさそうに見えたとしても、栄司は会長と付き合っていないし、遠縁以上の気持ちはない。
栄司にはそのつもりがなかったとしても、オレの恋人だと学園内で周知されることは栄司自身を守ることにもつながる。オレの恋人であることが公言されたことで、会長の親衛隊の一部はあきらかに態度が軟化した。そして、風紀は全面的に栄司の味方に回った。
風紀委員長の恋人に被害が出るというのは、風紀にとって最大の汚点と言っていい。
代々の委員長は問題が起きた際に被害がいかないよう、恋人ができても隠していたが先々代の風紀委員長は違う。
相手が会長だったこともあるが、堂々と相手を全校生徒に公表した上で守り切ると宣言した。
委員長の恋人は風紀一同が守るべき対象なのだと刷り込んだのは上手かった。
風紀を乱さないために大切になるのは秩序だ。
手を出してはいけない相手というのをきちんと認識していたら問題の大半は起こらない。
風紀は警察組織とは違う。問題が起きないように抑止するべき機関だ。
なにも裁かない、外から見たら機能していないような状態こそが理想。
風紀の腕章を振りかざして、あちらこちらに顔を出しているようではまだまだ足りない。
「明日からまた頑張るために栄司をくれ」
ずるい言い方をしていると思う。
好きだから抱きたいというよりもこのほうが栄司が素直でかわいくなるので仕方がない。
明日寝坊しないようにそこそこのセックスで我慢しようなんて優等生な意見はいらない。ここに来て、理性的な部分は持てない。
「えいじ」
「そんな、あまえた声、ださなくても……いやだって、言ってないのに」
笑っているような困っているような顔がかわいい。
「いやがられたら死ぬ」
「自分から誘っといて拒否するわけ、ない、じゃないですか」
「……じゃ、あおむけになって、自分の足かかえてくれるか?」
「その体勢、はずかしい」
気が進まないといやがる雰囲気を出しながら、栄司は正常位での挿入の体勢になってくれた。
足を大きく開けている栄司は最高だ。挿入がしやすくなる以上に視覚的にオレが興奮する。
腰を上げて足を自分で支えてオレを待っているような栄司に興奮しないわけがない。
オレから顔が見えないという点で、栄司はうつぶせで後ろからの挿入がいいらしい。けれど頼めばこうして正常位をゆるしてくれる。
むかしは真っ暗じゃないと躊躇った。薄明かりすらダメだった。今は電気がついていてもまぶしいと笑うぐらいだ。
どうしても出てしまう自分の声がいやだという栄司。後ろからのときは顔をシーツに埋めたり、手で口を押さえる。だが足を抱えるのに手を使っているため、この体勢だと口が無防備になってしまう。
奥歯を噛みしめている姿がかわいそうなのでキスをすることにしている。
オレの舌を噛まないように気を遣うような栄司の口の中の動きはかわいい。
腰の動きと連動するよう、動いたり動かなかったりする舌。ゆっくりとした出し入れに余裕ができたように絡む舌が積極的になる。そのうち、激しい抜き差しにキスしているのもやっとの状態になる。
足が抱えきれなくなると栄司の手がオレの背中に周り、栄司の足はオレの腰をガッチリホールド。
そのままイクか態勢を整えてから長く楽しむか、すぐに終えるか、お互いに相手の出かたを見る。
ここで前もって「明日のための今」だと伝えていると、長引いても激しくなっても栄司が嫌がったり止めることはない。何も伝えていないと本心はどうであれ栄司はオレに気を遣って早く終わらせようとする。健気でかわいいが、オレの下半身は足りないと訴えている。
「栄司がいるから明日も頑張れる」
オレの言葉に栄司が軽く頭突きして「これは、そっちじゃなく俺の明日のため」と言った。
同じ気持ちだと訴えてくる栄司に心が洗われる。
ベッドから出ずにずっと抱き合っていたい。でも、栄司は栄司だから身体がだるくてもサボるなんて考えもしない。そう思うと愛がとどまることを知らない。
激しすぎたのか、エッチの後に栄司が風邪をひいたことがある。
その後に気を遣って触れないでいたオレの服の裾を栄司は引っ張った。風邪で寝込むより一緒にいて距離が空く方がいやだと言った。よそよそしくなったオレを批難することも怒ることもない。健気にもさみしいのだと訴えるだけだ。愛おしい。
副会長とのことは気になるし、もっとエッチなことしたい。けれど、栄司のことを思うと一気に距離を詰めるのがもったいない気がしてくる。
自分のことしか考えていないクズを反面教師にオレは、栄司のことだけを考えられる自分でありたい。そう改めて思った。
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