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番外編:敵が誰であっても負ける気はしない1-2

 食べ途中の栄司と食べ終わった俺と冬式。  食事中でも気にせずに栄司は立ち上がり冷蔵庫からデザートを出してきた。  茶色のプリンかゼリーな見た目のもの。 「ほうじ茶か、梅こぶ茶のゼリー?」 「そう思う?」 「え? せいかい?」 「不正解ですっ」 「えー、まじかー、じゃあ、なんですかー?」 「関西弁みたいな変ななまり混ぜるなよ」 「冬式が関西をバカにしてくる。栄司、人種差別男がいるよー」 「これはプーアール茶のプリンです」 「栄司がさらっと無視してくる! お兄ちゃんに優しくすることを誓う会に所属している栄司が俺に優しくないっ」 「人のアジフライを取っておいて……」 「冬式が俺をいじめてくるんだけど、ねえ栄司」  栄司のアジフライを自分の物のように気にする頭のおかしい冬式。  面倒だからか栄司は気にすることもなく俺たちの目の前にプーアール茶のプリンを置いた。  甘すぎないデザートというのは冬式に対する配慮だろう。  俺の栄司はいつでもできる子だ。  栄司が食事を再開しているので、俺もプリンを食べることにした。  冬式はまだ心の狭いことを愚痴愚痴言っている。  すべてを聞き流す栄司は今世紀で一番すぐれているで賞を受賞するべきだろう。  俺も面倒なので取りあうことはないが、必死の冬式の訴えを聞かないでおく技術はとんでもなく高度な気がする。  なかなかに面倒な副会長とも栄司は平然と付き合えているようなので目に見えない数値がカンストしているんだろう。凡人とはレベルが違う。さすが俺の栄司だ。  写真に写った栄司を見た瞬間に俺の世界は変わった。  人を好きになることが俺にも出来るのだと知ることになったけれど、生身の栄司は写真とは違う。  立体的な生身の栄司を否定したいわけじゃないが写真には遠く及ばない。  普通ではありえない失恋を経験した先に俺はあらたな恋を見つけた。  俺だ。  栄司が撮った俺の姿に俺は恋した。  恋というのは正しくないかもしれない。  写真という媒体に愛を見出したのかもしれない。  ただ写真を撮られているときもその後の写真自体も時間を共有した証だと思うと愛おしい。  生のままの栄司に性的な欲求は覚えない、けれど栄司が撮った自分の写真でヌいたりはした。  撮影中の栄司の姿を思い出すと興奮する。  シャッターを切られる瞬間はとくに勃起することもなく大人しい下半身だが、写真として手元に残る自分の姿やそこに至るまでの時間を思い出すとたかぶる。  栄司に告げれば変わった性癖の一言で流されてしまった。  根本的に栄司は俺と似ていて面倒を避けたいのだろう。  藪を突いて蛇を出したくないから当たり障りのない言葉で逃げる。  ときどき副会長から俺のことを邪魔くさいというようなことを言われる。けれど、俺からすれば栄司以外のすべてが邪魔くさい。  俺を含めて世界にあるすべてのものは等しく邪魔くさくて面倒だ。  栄司の手が入っているともいえる俺の姿に劣情を刺激されるなら、栄司が作り上げたものすべてに俺は欲望をたぎらせているのかもしれない。  プーアール茶のプリンを食べながら勃起した俺は近々、冬式に部屋に入れてもらえなくなるかもしれない。  頼めば栄司はバスケットに食べ物を詰めて、俺のもとへ赤ずきんちゃんよろしく届けてくれるだろう。  栄司に対して俺ほど安全な人間はそういないはずだけれど、冬式はそれを認めない。  その危機感自体は否定しない。  無防備に周囲や栄司を信じて間違いが起こるよりは正しい。  俺は間違いが起こっても何があっても栄司に対する気持ちは変わらない。  思いが深く重く歪んでいく可能性はあっても、浅く軽く真っ直ぐになるわけがない。だから俺は栄司に何もする気はない。  誰かが栄司に何かをして、栄司が変わってしまっても、俺の愛は何一つ変わらないだろう。  あの日に見つけた栄司の姿は写真という形で永遠に残っている。  写真の中の栄司の姿が変わらないのだから、俺が栄司を嫌いになったり、ましてや離れるなんてことはありえない。  敵にしたら厄介だなんて、いつも誰かに言われる。けれど俺ほど単純でわかりやすく制御が楽な人間はいないだろう。  栄司さえいれば俺は大体ことを許すし、多少の面倒は大目に見ている。  冬式に敵意を向けられても笑う程度で立ち向かわない。  俺と冬式の争いは、数少ない栄司が嫌がることだからしないでいる。  栄司を取りあうという意味ならそもそも敵などいないのだ。  争う必要がない。  何を言ったところで栄司は俺や冬式、まして副会長ののものではない。  栄司は栄司のものだ。  俺はそのことを誰よりも知っている。  だからこそ、栄司そのものではないものをもらっていく。  栄司の心とかそういうものは、栄司そのものなので手に入らなくても仕方がない。  俺は現実を知っているので、冬式の敵になる気はない。  その土俵には上がらない。  俺の栄司に向ける愛は冬式や副会長のものとは違う。  性愛も友愛も含まない、純粋な愛情に勝ち負けなんてない。  俺と冬式から遅れて食べだした栄司のプーアール茶のプリンを半分わけてもらう。  また不快そうな顔で冬式が俺をにらむ。栄司がくれるのだからこれでいい。  俺は俺の立場をきちんとわかってる。  キスしてセックスしたところで栄司の中に俺が残らないのは知っている。  だから、誰ともポジションを取りあわない、今の位置が俺のベストポジションだ。

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