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番外編:俺が会長に振り回されていると思われている件について1-1

 風紀の副委員長は、同じクラスではないが同級生だ。  何かあるとふつうに会話をする仲だけれど、話が噛みあわないことも多い。  それでもめげずに話しかけてくる。  俺を一人にしないようにしている風紀委員としての意識プラス風紀委員長への愛だろう。  俺の恋人はだいぶ愛されている。同時に会長は少し嫌われているかもしれない。 「あの会長と、どーして一緒にいられんの? 理解できねえわ」  わりと自分のリズムで生きている人なので、会長を嫌う人がいるのは知っている。風紀としての立場では、俺と見えているものが違うこともあるだろう。副委員長は、ときどき俺にこうした疑問をぶつけてくる。  俺は会長が好きな人間からやっかまれるだけではなく、会長を嫌いな人間にも攻撃対象にされることもある。会長のそばにいるというだけで降りかかる災難はひとつやふたつでは済まない。自分でもわかっている。ここは損しかないポジションだ。けれど、他人に退けと言われて移動できるものでもない。 「副さん、なんかあったんですか? 聞くだけ聞きますよ」  風紀の副委員長は生徒会の副会長より、頭を使わず言葉を選ばず、怒りっぽいところがある。けれど多少は空気が読める。  副会長は俺と彼の仲がどうなっているのか、具体的な尻の使い方を根掘り葉掘り知りたがる。風紀の副委員長はそういう性的なところは、一切触れてこない。  空気を読むというよりも単純に性的な面でピュアなのかもしれない。  風紀委員長とキスしたとか、一緒に風呂に入ったと話すだけでうろたえる。そして、すぐに話題を変える。 「この前の文化祭の写真をよぉ」 「あぁ、自分が映ってた写真を全部処分させたんだ? やりそー」 「全部言わせろよ」 「中学の時に明文化した取り決めなんじゃなかった? 会長の写真係は俺って」 「そうだけどよぉ、たまたま親衛隊が撮った写真がベストショットだから広報の冊子に使わせてほしいって」  広報と言っても親衛隊の身内受け用の冊子だろう。あるいは学内配布用のプリント用か。どちらにしても制作者の趣味の一品。 「そこで風紀を介入させるって、いやらしくない? ゴリ押しする気満々じゃんか。……誰にも言わずに個人的に楽しめばいいのに」  会長は自分の写真を基本的に処分する。これは昔から公言している事実だ。これを知らない人間はこの学園の生徒ではない。そのレベルに有名な話のはずなのにこうした問題がときどき出てくる。親衛隊はわがまま集団だ。  元々会長はあまり写真が好きじゃなかったらしい。  写真うつりが悪いからと言っていたけれど本当はたぶん違う。  自分の姿が残るものが得意じゃないのだ。  この感覚は俺もすこし分かる。  写真家である父親が日常的に家族にカメラを向け続けた結果、俺が転んだり犬に吠えられて泣いている情けない姿も全部が写真に残ってしまっている。  忘れたい記憶も残してしまう写真は、楽しかった思い出を残す良い面もあれば、見たくない過去を突きつけることもある。  深く語ることはないけれど、会長の言葉に端々から写真への苦手意識は感じられた。それなのに写真家である俺の父親の作品を気にいって、仲良くしてくれて、その息子である俺は会長専属カメラマン。  これは学園においての俺の居場所確保と会長のストレスの削減だろう。  会長という立場なので、どうしてもカメラの前に立たなければならない場面がある。  ビジュアルとしても学園の顔として使いやすい会長なので業務として逃げることはできない。  妥協案が俺というカメラマンの起用。かわいがっている弟分のためなら、撮影という苦痛な時間は我慢できる、そういうことだろう。  写真を撮るのは趣味レベルでしかないけれど好きだし、会長の苦痛を思えば断る気にはなれなかった。

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