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番外編:俺が会長に振り回されていると思われている件について1-2

「写真があるって言われなければ捨てろとは言われないのにバカだろ。わざわざダメだって言ってることをしてゆるしてほしいと許可をもらおうとするなんて厚かましい」  吐き捨てる俺に苦笑いをする副委員長。 「おまえ、ときどき手厳しいよね。ビックリするわ」 「だってさ、会長は事前に俺以外に撮られるのはいやだって再三言ってんだよ? 自分を撮影するなら俺も連れて来いってさ。それなのに俺の予定が空いてなかったとか、ウソついて……俺抜きにして話を進めて、それが露見して、会長の機嫌損ねて……」 「あー、へそ曲げた会長をおまえがなだめなきゃいかんもんな、おつかれさん」 「親衛隊が俺がヒステリーになって、難癖つける切っ掛けにもなるからダブルパンチ」 「……ってもさ、それ会長が写真を撮るのは誰でもいいって言えばよくねえ? おまえへの当たりとか改善しそうじゃん」 「無理だろ。どっちにしても親衛隊のヒステリーは変わらないし、会長が我慢するのは違うと思うし」  もちろん俺が親衛隊から罵倒される理由はない。けれど会長だって親衛隊の言いなりになる理由はない。俺が学園で嫌われる理由が会長だとしても会長が悪いとは思えない。  はじめにルールを伝えているのに破ろうとする方がおかしい。  風紀委員長として彼にも心配されたことがある。けれどこの件で会長が責められるのは違うと思っている。写真を撮りたくない俺に無理やり会長が写真を撮るように命令してるわけじゃない。  お願いされて俺が自分の意思でOKを出している。  俺の予定を聞いた上でスケジュールを組んでくれるし、出来あがった写真の選択も基本的に俺の意見を尊重してくれている。  俺が撮った写真を見ながら会長が「俺が千倍増しに輝いて見える」と口にするのを見るのはやっぱり嬉しいものだ。  遠縁というだけじゃなく、会長が自分の腕を認めてくれている。だからこその専属カメラマンなんだと一瞬でも誇らしくなる。 「会長が一度我慢して許したらきっと際限がなくなる。あのときは良かったんだから、次もいいだろうってさ。これがありなら、これだってありじゃないのはおかしい、とか。写真とか関係ないところで会長の自由は奪われていく」  親衛隊たちは会長の迷惑を考えない。  正確に言うと会長のことを考えている大部分のやつらと自分の欲望のままに生きてる一部のやつらで分かれている。  親衛隊は決して一枚岩じゃない。 「ふーん? 好き勝手しているように見えて、そーでもないってことかぁ。会長やってんだし、まあバカではないわな」 「好き勝手は実際してるだろうけど、そうするために頭は使ってると思うよ、想像だけど」  ノープランで発言はしない。勝算のある賭け以外やらない。  代替案もなしに人の意見を切り捨てたりしない。そういう人だ。  俺に対しては目に見えて甘えがある。けれど俺も人のことは言えない。  会長が許してくれているともあって俺も会長に甘えている。 「最初の質問にちゃんと答えると会長と一緒にいるのは楽だよ。べつにイヤイヤじゃない」  ふたりだけならそんなに面倒はない。  学園生活の中では面倒ばかりで、疲れたり嫌になることもある。けれど遠縁というだけで、俺を毎日構い倒しにくる会長は面白い人だと思う。  直接言われたことはないけど、俺の体調を気にして毎日顔を合わせようとしてるんだろう。 「気恥しいけど身内意識っていうかさ、何してても大丈夫なところがあるっていうか、安心感がある」  整った見た目に緊張したりもする。それ以上に親しみやすい好人物で、生徒の人気があるのも分かる。 「何しても、って、何したことあんだよ」  言外に俺に何もできないだろうという空気を感じて、自分がやらかした失敗を思い出す。  実は結構あったりする。ドジだとは言いたくないが、抜けてるところはそこそこある。 「軽いのだとトースト焦がすとか、魚を焦がすとか、塩と砂糖を間違えるとか」 「ぎゃーぎゃー言いそうなイメージしかねえなぁ」 「言うけどそれだけ。後に引かないから楽なんだよ。まずいって言いながら結局いつも食べてくれるし」  副会長は一つの失敗を根に持つタイプだ。  謝れば許してくれるけど、謝らなければならないようなことはするなと無言の圧力がすごい。 「委員長は?」 「……あの人は不味くても美味しいって言ったり、嫌いでも平気っていうタイプだから、なんか申し訳なくなる」  彼がウソつきだというわけではなく、優しいのだと分かっている。それでも気を遣わせたことが情けなくなる。  いくつもそういったことが重なると俺がそばにいていいのかとか、何でもないことでも気づかない内に悪いことしたんじゃないのかと不安になったりする。俺が自分に自信がなさすぎるせいで、彼自身の普段の言動も信じられなくなってしまう。  彼と会長が気心知れたように軽口を叩いているのを見るとそれが出来ない自分と比較してどうしてもモヤモヤした気分になる。俺の隣にいることに苦痛を感じていないかと聞いてしまいたくなる。  もちろん、自分の首を絞めることになりかねないので彼にこんなことは絶対に言えない。  会長がいつでも言葉を飾らない傾向にあるせいか、引きずられるように彼は会長に向かって簡単に本音を吐き出す。  売り言葉に買い言葉でも、俺はその関係が羨ましい。  彼にとって会長は特別だと思うし、俺では足りないものも多いと日々実感してしまう。  年齢の壁もあるだろうが、彼に会長が似合うんじゃないのかと一瞬でも思ってしまうのがつらい。  何でも言ってほしいなんて、無理に決まっている。  わかっていても、隠されたり誤魔化されるのは、悲しくて淋しい。  俺もちょっとした嫉妬や会長との仲を疑う気持ちがまだ消えないと伝えていない。隠し事はお互い様かもしれない。  会長は普通は言わないようなことも隠すことなく開けっぴろげに教えてくれる。そのため逆に気を遣う必要がない。向き合うのが楽だ。彼とは全く違う。会長のことは言葉通りに受け止めて問題ない。言葉の裏に隠された、真意を探ろうとしなくていい。

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