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【2】男の視線がゆっくりと錦に向けられた。
額から流れる汗をハンカチでぬぐい、直射日光を避けるための木陰を探しながら歩く下校道がいつも以上に長く感じる。
焼けたアスファルトから陽炎が立ち上がり、向かいから歩いてくる白いワンピース姿の女がゆがんで見えた。
赤くほてった頬、額に滲む汗、吐き出す息さえも熱くて不快指数が増した。
ハンカチで何度拭っても、水滴は滴る。
錦は閑静な住宅街を黙々と歩いていた。
道路を隔てて左側、小さな公園の入り口に自転車が三台倒れるようにして置かれている。
公園では数人の子供がサッカーに興じていた。
私服姿の子供の中には制服姿のままの子供の姿も混じっている。
帰宅後着替える時間も惜しみ年に一度の長期休暇を謳歌しようとしているのだろう。
この暑さの中元気なものだと感心する。
公園を通り過ぎると、四角に刈り込まれた垣根の向こう似た様なデザインの家が4件並ぶ。お揃いの様な見た目の家を見ながら同じ業者が建築した家なのだろうかと毎度の様に考えてしまう。この通りまで来れば、あと20分程歩けば自宅につく。
自宅から学校まで徒歩で約45分はかかるのだ。
4件目の家を通り過ぎ右手に曲がると、進行方向側の歩道に設置してある自動販売機に、男が寄り掛かるようにして立っていた。歩道側の道路端には一台の車が駐車している。
思わず眉をひそめた。
錦の向かいから自転車に乗る小学生が意味のなさない声をあげながら、車をよけ通り過ぎる。
男は飲みかけのコーラのペットボトルを煽りながら、彼らを視線で追う。自転車は錦の横を通り過ぎ背後遠くへ走り去る。
照準を定める様に、男の視線がゆっくりと錦に向けられた。
子供の声が遠く背後から聞こえ、遠ざかり、角を折れたのだろう――完全に聞こえなくなった。
不意に喉の強烈な渇きを覚えた。
他に誰もいない、男と二人だけだ。
男が静かな視線を錦に絡ませる。
品定めするように、初対面にしては不躾なほどにじっくりと舐めるように。
そして形の良い唇を釣り上げてニィッと笑った。
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