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【4】餌は目の前にある

「早く早く。君が早くしてくれないと、お兄さん、ヴェリー・ウェルダンになるよ」 「まさかとは思うが…小学生と知った上でナンパか?ちなみに俺は男子児童だ。この膝丈の半ズボンがスカートにでも見えるのなら、今すぐ運転することを止めた方が良いな。速やかに脳外か眼科へ行く事を薦める。」 軽蔑しきった目で男を見上げる。すでに敬語はやめた。 今まで女に間違われたことは無いが、もしかしたらこの男は勘違いしているのかもしれない。 男は笑顔を崩さない。 笑みを保ったままの顔は、薄気味悪ささえ感じる。 「脳外や眼科より内科へ行こうか。今君のお母さんが病院に運ばれたんだ。ちなみに僕は君のお母さんの知り合いだよ。ところで、このホワイトソーダとカルピスソーダの違いは何だか分かる?結構わからない人多いんだよね。」 陽気なのに軽薄な印象が強い。 いきなり誘拐かと聞くのもばかげている。 しかし、何故か無視をするという選択は無かった。 普段の自身であれば、思考が低下していたのかと思うほどの軽はずみな行為。 ある種の好奇心が芽生えたのだ。 見知らぬ男について行くと言う危険を理解していないわけではない。 防衛本能よりも、精神的欲望を満たしたいという願望が拒絶の言葉を押しとどめた。 もしも、自分が居なくなったら、彼らはどうするだろう。 そこに、自身の価値が見出される。 変えられない現実から逃げたいという気持ちが無いといえば嘘になる。 餌は目の前にある。 おあつらえ向きに、丁度良い役者に舞台が用意されているのだ。 セーラーカラーの夏服に食い込む肩ベルトに手をやり、ランドセルを背負いなおす。 ―――『誘拐犯は親族の友人、同僚などと立場を偽り、言葉巧みに乗車させようとします』 授業で見たスクリーン上の誘拐犯と同じセリフに少し笑いたくなる。 べただ。もう少し工夫をしてくれ。 そうでないと、攫われる俺は唯の馬鹿じゃないか。

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