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【6】『嘘だよ。』
男は「ふふふ」と笑うとエンジンをかけ、ゆっくりと車を発進させる。
「聞き分けが良くて助かる。」
「そうか。それは良かったな」
「落ち着いてるね。お母さんの事嘘だって気が付いてると思うけど、良くあるの?」
「…嘘なのか?」
「嘘だよ。落ち着いてるなぁ。やっぱり、こういうの慣れてるのかな?」
こいつばらしやがった。
舌打ちしたくなったが、男の飄々とした姿を見ていると一人で焦るのは馬鹿らしい気がした。
会話を録音している様にも思えなかった。
別段不利にはならないだろう。きっと証言でなんとでもなる。
何よりもここで帰されたら意味が無い。
首を仰け反らせて冷たいペットボトルを額に当てると火照りがすっと引いていく。
しかし依然として頭痛は続いている。
額からペットボトルをはがし吐き気よりましだと思うことにした。
「あぁ、慣れてるさ。お前みたいに若い男は初めてだがな。」
「若い男が初めてのくせに、慣れてるなんて厭らしい。このビッチめ。」
「びっち?」
「夏休み前に防犯の心得って講習受けないの?君寝てたの?」
「――誘拐だろ。勝手にしろ。明日からどうせ夏休みだ。退屈な時間を潰すには丁度良い。」
「…は?」
長期休暇は一月以上あるのだ。
余程酷い暴力を振るわれない限りは数日監禁されても、学業に影響は出ないだろう。工作と絵日記は無理だろうが(朝顔の観察日記でも書こうと考えていた)運が良ければ、宿題ぐらい監禁生活中にできるかもしれない。
投げやりな錦の言葉に男は目を丸くしてこちらを一瞥する。
それ以上話すのがいやで目を閉じた
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