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【11】望まぬ真実

茶室は離れ座敷と違い一度外に出なくてはいけない。露地下駄を履き露地を歩く。 雨が降っていたので小走りで移動したかったが、夜なので音が響くことを恐れて忍び足で移動した。 躙り口前の沓脱石には履物が置かれている。 音をたてぬよう、濡れた飛石を避けて茶室まで忍び足で近づいていく。 残念ながら雨に濡れた何時もとは異なる趣の露地を楽しむ余裕すら無い。 矩折に貴人口と躙り口が併設されている。 腰掛待合の踏石の上へ傘を倒すようにして置く。 走ったわけでもないのに早鐘を打つ心臓と荒くなる呼吸。 ここまで来て突然逃げたくなった。 望まぬ真実がそこにあるかもしれないのだ。 暴いてはいけない秘密だったら、どうする。 見て見ぬ振りができるのか。 ――ここまで来て…。 錦は自身を落ち着けるため、敢えて母がいるだろう広間とは逆の水屋の方向へ足を進める。怖がる自分をなだめる様に、ただ事実を目にする瞬間を先延ばししているだけだ。給仕口が目に入るがそこから忍び込めば確実に見つかるだろう。 水屋の半透明のガラスの連子窓から炮烙棚が透けて見える。 茶道口が開かれ、広間からの光源が水屋へ漏れているのだ。緩やかに深呼吸をしながら、裏側へ回る。閉ざされた蓮子窓、色紙窓をやり過ごす。 広間に近付くにつれて、足が重くなる。 半周ほどした。おそらく壁の内側には道具入れがある場所だ。 外壁に墨蹟窓が見え床まできたことを確信する。 ゆっくりと、壁を伝う。 連子窓の隣に設置された下地窓の障子が半開きになっていた。 もしも、窓が全てしまっていたら、もやもやとした思いを抱えつつも、きっと引き返した。 窓が閉まっていたことを口実に、逃げていた。 しかし、窓は開かれている。 半開きの障子に近寄り、慎重に中を覗く。 落とされた照明と炉が見える。 そして、そこに背を向けた母が居た。

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