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【12】暴いてはいけない秘密
やはり、知るべきではない秘密だった。
雨は激しさを増したのに薄膜を隔てたように音が遠ざかる。
男の苦しげな、声。
囁くような話声に交じり時折母が笑う。
母の声とは思えぬ、かすれた低い声は随分と艶やかだ。
何が行われているのか子供でも分かる。
震える膝に力を籠めるが徐々に感覚がなくなる。
立っていられた事が不思議だった。
白い背をこちらに向け男に跨る母の周囲には、男のものと思われる衣類が散らばっている。全裸で母の下に横たわる男の顔は見えない。解かれた帯とともに腰でわだかまる着物の下から此方へ向かい伸びる長い男の足。女特有のくびれた腰と乱れた着物の中から覗く白い大腿に添えられた大きな手だけが見える。腰をうねらせて喘ぐ母が上体を倒す。錦からは見えないが、男の顔に乳房を寄せたのだろう。
背中に手を這わせる男に母は震えた声で啼く。
肌を吸う音と呼気が鼓膜を震わす。粘着性のある水音が淫らに響く。
「赤ん坊見たいね。」乳房を吸わせ背を弓なりに反らせて笑いながら喘いでいた。
錦はその場から逃げた。
足を縺れさせながら、それでも物音を殺し自室までたどり着く。
早鐘打つ心臓と酷い吐き気に頭の中がぐしゃぐしゃになる。
立っていられなくなり、崩れ落ちた時膝が酷く震えていた。
膝だけではない。全身が震えていた。
両肩を抱いて立てた膝に顔を埋める。
抜けるように白い背中と、乱れた着物からでる大腿。
動くたびに素直にうねる黒髪が脳裏に浮かぶ。
あぁ、紛れもないあの女は母だ!!
母が脳裏で苦し気に喘ぐ。
断末魔の叫びを思わせる縊り殺される小鳥の様な鋭い声で絶頂を迎えていた。
噛みしめた唇から呻き声が漏れる。
何故、どうして。
あれは何だ。
何なのだ。
視界が歪んで、錦は自身が泣いていることに気付く。
まだ、実の両親の営みなら衝撃や嫌悪だけで済んだかもしれない。
同級生が、両親の夜の営みを垣間見てしまったと嫌悪感いっぱいの表情で話しているのを聞いたことがある。
まさか自分が実の親の情事を目にするとは思わなかった。
しかも相手は父意外の男だ。
彼女は不貞を働いていたのだ。
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