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【19】非日常へ踏み込んだ

だから自らの足で、非日常へ踏み込んだ。 日常生活から思い切って飛び出した、不安定ではあるが不思議と身軽な気分。 それと同時に、やはり拭い切れない僅かな罪悪感。 知らない相手に自身を委ねる不安と恐怖。 「さ、おいで。涼しいとはいえ、日差しの強さは変わらないんだ。倒れちゃうよ。」 門扉を開く。邸宅の壁と同色のレンガ調のタイルで設計されたアプローチは傾斜の緩やかなスロープになっており、玄関先にたどり着けば歩行補助の手すりが設置された階段へと切り替わった。手すりのサイドの花壇に常緑低木が植えられている。 黄味がかる緑色の斑入りの新葉が風に揺れ計算された美しさを見せた。 男の背中を追いながら、周囲を見やった。雨上がりで濡れた芝が一層濃い色を映し出す。 花壇、生け垣として植えられたオリーブの木。 クロアゲハが風に飛ばされながらも、咲き乱れたオレンジと黄色のキバナコスモスにたどり着く。ガーデニングスペースの植物も、青々とした芝も手入れが行き届いている。 「おい、ここはどこだ。」 「ははは、何処でもいいじゃん?夏休みだし折角だから避暑地ですごしたいよね。」 誘拐後の監禁場所として別荘を使用するとしたら、貸別荘は避けるだろう。いや、この男は白昼堂々、路上駐車をした上でジュースを飲みながら誘拐する人間を物色しているような男だった。(実際は錦を狙っていたようだが、あのような場所で待ち伏せなど目立つだろう) 「君はこう言う所良く来るんだろう?」 「…さぁな。」 朝比奈家が所有する別荘や保養所の一つに、避暑目的に昔母と二人で遊びに出かけたことはある。一度だけだ。そこに父はいなかったが、もう今は母と出かけることなどないのだから大事な思い出だ。

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