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【31】真っ赤な嘘
「学校行事の参加とかは?」
「参観日とかは大体母が出席する。両親が揃って参加するのは運動会位だ。」
朝比奈グループ傘下企業に親が務めている同級生たちの言葉だ。
忙しい父親が、その日ばかりは休暇をとり母親と揃って参加する。
家族内の誰が参加するか、クラス内で学校行事があれば必ずされるお決まりの会話。
「成程。お父さんもその日ばかりは有休とるんだね。」
錦の家からは誰も来ないので、気を利かせてか敢えてその話は避けられる。
正直余計なお世話だ。
「運動会は皆両親揃って参加してるよね。他にどういう学校行事があるの?小学校って文化祭あったっけ?」
「文化祭はないが、演劇鑑賞とか音楽発表会はある。」
「劇団呼ぶやつか。音楽発表会って君何かした?」
「クラス別と個別のコンクールでピアノ弾いた。最優秀賞は無理だったが優秀賞が取れたんだ。」
音楽発表会では合唱または演奏を発表するクラス別のコンクールと、生徒が個別で出場するコンクールがある。クラス別では賞は残念ながら取れなかったが、個別出場では表彰された。最優秀賞は逃したが、バイオリン演奏をしたクラスメイトが準優秀賞、ピアノ演奏した錦が優秀賞をとった。
最優秀賞は、隣のクラスの生徒だった。
バイオリンを弾いたクラスメイトは父親に抱き上げられていた。
「その時、頭撫でて抱き上げてくれた。自分の事みたいに喜んでいた。」
クラスメイトは恥ずかしがり嫌がっていたが、錦が引きつけられたのはあの時の父親の顔だ。 喜びに紅潮し顔面をしわくしゃにした満面の笑みだった。
あんな風に笑う何て余程嬉しかったのだろう。
「へぇ、凄いじゃないか。ここにピアノがあればなぁ、錦君に弾いてもらえたのに。所で成績はどうなの。」
男はデザートのフルーツも平らげて、紅茶をカップに注ぐ。眼がキラキラと輝いていた。両親でさえこんな風に錦の学校生活を聞いたことは無いのに。変な男だ。
「俺は成績上位者だ。日々努力しているから当たり前だ。」
これは本当だ。
毎日予習復習に励んでいるので、成績は常にトップクラスだ。
「おお、努力もしているところが良いね。君スペック高すぎ。ご両親は鼻高々だね。成績良い時はどんなふうに褒めるの?」
「よく頑張ったって頭撫でてくれる。こう、くしゃくしゃって…。」
「撫でられても仏頂面の錦君想像しちゃった。はははは。」
―――俺は何を言っているんだ。
むきになる自分がいる。こんな風に自慢げに語ったことなどない。
それなのに名前もわからない初対面の男に必死に取り繕っている。
徐々に目の前が赤くなる。羞恥心で顔が赤くなるのが分かる。
真っ赤な嘘だ。
何故、嘘を言ったのか分からない。
今まで誰にもこんな見栄を張ったことが無いのに。
すらすらと嘘が出てくる。
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