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【42】お揃い

「最後は海亀の赤ちゃんとヒトデ見て行こうか。ペンギンは居ないみたいだね。」 出口には数人の子供とその保護者がいるだけで、あとは足早に会場を後にしている。子供がのぞいているビニールプールには一匹の海亀の子と大小のヒトデが数匹いた。 男に笑いかけられて錦は頷く。 衛生面が気になるが、後で手を洗えば問題ないだろう。 水の中に手を入れてヒトデに触れてみると、想像と違い固くざらついていた。 何度も同じ進行方向で泳ぐ小さな海亀の頭を男の指が撫でる。 黒い円らな濡れた瞳、ポカンと開いた口。 勿論男は写真を撮る事を忘れない。 「間抜け面だが癒される顔している。」 「可愛いね。さてと、出るか。」 出口にある売店で、男は硝子で作られた熱帯魚とヒトデの置物と、クマノミと亀とペンギンの縫いぐるみ。 色違いのクラゲのキーホルダーを二つ購入し「お揃いだね」と一つを錦に差し出した。 小さなヒトデのチャームとアクリルビーズの貝殻が付いた、淡い青と緑のグラデーションが綺麗なクラゲ。書き込まれた円らな黒い目が何だか可愛らしい。 「水族館って言うより、ペットショップのアクアリウムコーナー豪華版みたいで大したことなかったね。御免ね。この辺って娯楽施設がなくってさ。」 「…喫茶店も、こういったデパートに入ること自体も初めてなんだ。」 手を繋いで買い物をしたり、遊びに連れていかれたこともないから、男の言う『大したことが無い』と言う比較さえ分からない。男が驚いたように錦を見下ろす。 そんなに驚くような事だろうか。 「図鑑やテレビ以外で海の生き物をあんなに沢山見たのも初めてだ。クラゲがあんなに綺麗な生き物だなんて今日初めて知ったし、凄く楽しいぞ。」 それに、お揃いでキーホルダーまで買ってくれたのだ。 これも初めての体験だ。 「キーホルダー有難う。大事にする。」 僅かに微笑むと、男は照れくさそうに笑う。

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