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【43】本日二度目の疑問

最上階から一階ずつ下に降りて目的もなく店内を歩いていると甘辛い匂いがした。 「なんだアレは。」 壁に沿い小さな店舗がいくつか並び、共有された客席は50席程だ。仕切りがなく、エスカレーターからでも座席スペースで食事を楽しんでいる客の姿が一望できた。 解放された空間で、安っぽい食事をしながら楽しそうに過ごしている親子。 夏休みなのに――補習か部活動だろうか――制服やジャージを着た高校生くらいのグループが3組ほどハンバーガーに齧り付いている。 「フードコートだよ。もしかして知らない?」 「知らない。」 こんな所があるんだなと感心していたら、どれだけ箱入りなのと男に笑われた。 「結構おいしいと思うよ。一回くらい試してみるか。」 ファーストフード、クレープ、ドーナツ、ラーメン、丼物などどれも馴染みのないものばかりだ。座席スペース前にあるスタンド看板を見て、どれにするか聞かれたがこれと言って食べたい物はない。 男も店舗のメニューを見て悩み最終的に天婦羅蕎麦セットにしたので、錦は同じ店で出されてる梅饂飩にした。ファーストフード店やラーメン店は長蛇の列を作っているのに、饂飩や蕎麦はあまり人気が無いようで、カウンター前には人影すらない。 サーバーで飲料水を汲み、空いた席に腰かけたと同時に注文時に渡された呼出ベルがなった。 「錦君は食べ方も可愛いね。」 「お前は熱くないのか。」 一本ずつ饂飩を口にする錦とは違い、男は熱い蕎麦を音を立てずにするすると啜る。息を吹き掛け冷ます事無く啜るなんて熱くないのだろうか。 平気と笑う男を信じられないような目で見て水を口に含んだ時、斜め前の席に座りハンバーガーを食べている少女三人が此方を見ている事に気が付いた。 そして、一人が向かいのテーブルでシェークを吸い上げている友人に耳打ちをして、こちらを――男を見た。 「なぁ…」 「うん?」 「気付かれているんじゃないのか。」 「ん?」 「後ろの女がお前を見て何か噂しているみたいだ。」 小声で話すと彼は目を丸くして次に笑い出す。 誘拐事件として情報発信されているとは思えなかったが、それでも不安になる。 「やっぱり、警察が動いているんじゃないのか…。」 笑いごとなのか。 能天気な笑顔を見ていると、何故誘拐犯の彼ではなく誘拐された俺が心配しなくてはいけないのかと、本日二度目の疑問を浮かべた。

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