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【45】『見せつけてやろう。』
「君さ店に入った時から結構注目されていたよ。」
「先ほどのフードコートで女はお前を見ていた。俺じゃなくてお前が見られていたんだ。…てっきり、警察が情報公開しているのかと思った。」
「心配してくれたの?」
「…違う。」
「朝比奈家は警察なんか使わない。」
「…そんなの分からないだろうが。」
男は答えず嫣然とした笑みを浮かべる。
「多分、僕と君がいちゃついてたから女の子たちは見てるんだよ。」
腰を抱かれ引き寄せられたので、驚いて見上げるとなんだか厭らしい笑顔を見せた。
男はニヤニヤと笑っている。
何だその厭らしい顔は。挑発しているのか。負けるか畜生。
錦は腰にまわされた男の手に手を重ね、どうだと睨み上げる。
彼はなぜか噴出した。失礼な奴だ。
「よし、錦君。見せつけてやろう。」
隣を歩いていた中年の男が追い越しざまに、ぽかんとした顔で錦と男を見る。
視線が集まったが、もうどうでも良い気分だ。
もしも朝比奈の関係者か警察に捕まったら、こいつは恋人だとでも叫んでやれば良い。
男は少しは慌てるだろうか。
いや、こいつなら、悪乗りして猥褻なこと までついつい口にしそうだ。
面白くない。
錦ばかりが驚いたり焦ったりしている。
不貞腐れた錦はやけくそになり、男の体に頭を摺り寄せた。
男は嬉しそうに笑うだけだ。
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