50 / 71

【45】『見せつけてやろう。』

「君さ店に入った時から結構注目されていたよ。」 「先ほどのフードコートで女はお前を見ていた。俺じゃなくてお前が見られていたんだ。…てっきり、警察が情報公開しているのかと思った。」 「心配してくれたの?」 「…違う。」 「朝比奈家は警察なんか使わない。」 「…そんなの分からないだろうが。」 男は答えず嫣然とした笑みを浮かべる。 「多分、僕と君がいちゃついてたから女の子たちは見てるんだよ。」 腰を抱かれ引き寄せられたので、驚いて見上げるとなんだか厭らしい笑顔を見せた。 男はニヤニヤと笑っている。 何だその厭らしい顔は。挑発しているのか。負けるか畜生。 錦は腰にまわされた男の手に手を重ね、どうだと睨み上げる。 彼はなぜか噴出した。失礼な奴だ。 「よし、錦君。見せつけてやろう。」 隣を歩いていた中年の男が追い越しざまに、ぽかんとした顔で錦と男を見る。 視線が集まったが、もうどうでも良い気分だ。 もしも朝比奈の関係者か警察に捕まったら、こいつは恋人だとでも叫んでやれば良い。 男は少しは慌てるだろうか。 いや、こいつなら、悪乗りして猥褻なこと までついつい口にしそうだ。 面白くない。 錦ばかりが驚いたり焦ったりしている。 不貞腐れた錦はやけくそになり、男の体に頭を摺り寄せた。 男は嬉しそうに笑うだけだ。

ともだちにシェアしよう!