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【46】寂しい気持

楽しい時間はあっという間に過ぎる。 デパート内を歩き回っていただけ なのに、すでに半日過ぎていた。 車で帰る際、錦はうとうとと舟をこぐ。 夏休みの始まりから今日まで別荘にこもりきりで久しぶりに外出したから疲れているのだ。 どれくらい車で走ったのだろうか、目を覚ますと海水浴場の防波堤前に車を駐車していた。男はボンネットに寄り掛かり海を眺めていた。 錦はその背を見て少し寂しい気持ちになる。 どんな顔で海を眺めているのだろう。 時刻はすでに18時になるところだが、まだ日は高い。車のドアを開けて男に声を掛けると彼はほほ笑んだまま錦に飲みかけのジュースを差し出す。水分補給をしろと言う事だろう。 大人しく受け取り、ペットボトルに口をつけた。 「綺麗だね。」 強い日差しに輝く水面を眺めて、ふと気になった。大きな犬を連れた男性が一人浜辺を歩いているだけで、他に人はいないのだ。 「海水浴場なんだけど、今年は鮫が目撃されたから遊泳禁止なんだって。だから、人がほとんどいないみたい。」 「なる程。」 ペットボトルを返すと男は「間接キスだね」と笑い飲み干した。直ぐ目の前に、浜辺に降りる為の階段がありサイドにダストボックスが設置してある。空のペットボトルを捨て、二人で階段を下りたら、焼けた砂浜から熱気が足に絡んで驚いた。 白い砂は涼し気にみえたのに。素足で歩けば火傷をするだろう。 「浜辺でも植物が育つのか。」 「海浜植物ならね。」 防波堤の真下に置かれた消波ブロック近くの砂に植物が生えている。 朝顔に似た葉と蔦が砂浜を這う様に伸びていた。 男は植物の葉を見て「ハマヒルガオだね。」と言う。 「ヒルガオ科だから朝顔の仲間だ。薄紅色の朝顔みたいな花が咲くんだよ。」 男曰く、残念ながら花の時期は終わっているらしい。 ブロックに背を向けて海辺へと歩く。 「花が咲くのか。いつか見てみたいな。」 「そうだね。」 男が淡く笑むのを見て、胸が苦しくなった。

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