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【51】『頭撫でろ』『何だい。君は猫か。』
「頭撫でろ。」
「何だい。君は猫か。」
頬から後頭部を撫でられ、髪を何度も梳く。
感じたことのない多幸感が全身を覆っていく。
成程。同級生たちはこの至福の時を、親相手に経験し当たり前のように味わっていたのか。
羨ましい限りだ。
男の温もりを堪能し、香水か柔軟剤か分からないが、僅かに発せられる石鹸に似た香りを吸い込む。
「さてさて、ニャンコはあと何処を撫でてほしい?」
「そんなもの自分で考えろ。」
「ぶはっ!その態度のデカさ。本当に猫みたいだ。」
髪の毛を撫でられ、背中へと手が滑り落ちていく。
気持ち良い。
シャツ越しに感じる手の温かさに、ほうっと息をためて吐き出す。
うっとりと目を閉じて、幸福感に浸る。
抱きしめて撫でてくれるなんて、家族みたいだ。
幼い錦にとって男の行動は親愛か家族愛に分類される。
この男が父親だったら良いのに。
そんな風に考えて可笑しくなる。
彼の年齢で父親は少し無理がある。
では、兄だろうか。
兄が居れば、こんな風なのだろうか。
優しくて笑顔が綺麗で柔和な容姿の兄。
長い指で頭を撫でて錦を甘やかす年上の男。
兄か。悪くない。
――兄だったらなぁ。
兄だったら、ずっと一緒に居られるのに。
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