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【53】迫る終わりの気配

夏休みはあと一週間で終わりを告げる。 別れる時、互いにどんな顔をしているのかなんて知りたくもない。 夜が来る度、朝を迎える度、迫る終わりの気配に極力何も考えないように過ごした。 朝食後、炊事を終えた男は部屋の掃除をすると言い、錦をリビングに残し二階に行ってしまった。 手伝いを申し出るが、大人しく待つように言われて不貞腐れた。 確かに錦は料理をする男を手伝おうとし火事を起こしかけた事はあるが、掃除くらいできる。  ――それに、男がいないと退屈だ。 何時もならこの時間はテラスで朝日に照らされる海を楽しむのだが、昨夜から夜明けにかけ降り続けた雨の所為で霧が立ち込めて海が見えないのだ。 リビングルームから窓越しに薄墨の曇り空を眺め、溜息をつきスノードームを手の中で揺らす。 クリーム色のヒトデと茶色の縞模様の小さな巻貝と、薄紅色の珊瑚に尾を絡ませた黄色のタツノオトシゴの周囲を、キラキラとブルーとオーロラに輝くパウダーが舞い上がる。 男が作ったものだ。 昨日デパートに買い物へ行った時、以前に催されていた『夏休み特別展示会』は親子水族館から親子工作というスノードームを作るイベントに変わっていた。ドームの大きさは大中小の三種類あり中に入れる装飾により金額は変わる。男は目を輝かせて錦の手を引き会場内に入った。 ドームの大きさは中にして 、錦は白いスナメリと黄色と桃色のイソギンチャク、ヒトデを使用した。 パウダーは男と同じオーロラとブルーだ。 自画自賛になるが、中々の出来だ。使用した装飾の選択も最良だった。 スナメリの愛嬌のある笑顔が特に良い。 目が有った瞬間、男に似ていると思った。 出来上がったスノードームは互いが作ったものと交換した。 男が作った物を与えられた事が、自分が作った物を贈れる事が嬉しかった。 何時も以上にご機嫌な男は、鼻歌まじりで店員に錦自身と錦の作ったドームの自慢をし、さらに二人分のスノードームの代金を支払おうとした。 せめて男に渡すスノードーム代は支払わせてほしいと慌ててレシートを取りあげようとするが、それを拒む男との攻防がしばらく続き、後ろに並んでいた客に多大な迷惑をかけてしまった。

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