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【54】偉そうな猫

――思い出しただけで、恥ずかしくて赤面してしまう。 頬が熱く感じスノードームを床に置く。 その隣に男から貰った彼と揃いのクラゲのキーホルダー。 学校の備品を除き、誰かと揃いの物を手にするのは初めてだ。 キーホルダーを見る度嬉しくなる。唇がわずかに綻んだ。 そして浜辺で拾った貝殻を並べる。 男が拾い上げた桃色の巻貝を持ち上げてそっと耳に押し当てると、波の様な音が聞こえた。 男曰く、これは錦自身の耳の奥にある体液が揺れ動き、その音が反響しているらしい。 不思議な気持ちになるが波に似た音を聞いていると安心する。 熱の冷めない砂を濡らす海水。 遠く、近く。ざぁざぁと木霊す波の音。 男と足跡をつけながら手を繋いで歩いた砂浜。 夏の思い出だと笑う綺麗な顔。 男が恋しくなり、貝殻を耳から離す。 「君は何をしても、本当に絵になる子だね。」 タオルで手を拭いながら傍らに立った男を見上げた。  掃除は終わったのだろう。 「また眺めてる。」 毎朝繰り返し良く聴くセリフ。 しかし、眺めている対象は海ではない。 「…今日は海が見れないからな。」 外に出て海を眺める事は出来ないし、男と浜辺を歩くこともできない。 しかし部屋の中で男とゆっくり過ごすのも悪くはない。 小さな箱を手にした男が横に座り顔を上げた錦の頬を撫でる。 目を細め猫がじゃれる様に掌に頬を摺り寄せた。 頤に指が伸び唇を撫でられくすぐったさに手を払いのけ、代わりに頭を傾けて男に差し出す。 撫でろと言う無言の要求を馬鹿でなければ理解できるはずだ。 男は笑いながら錦の要求を正確に汲み取った。 「本当君ってさぁ。ぷっ…くっくく。偉そうな猫みたいだ」 旋毛に軽く指を立て髪を掻き分けるようにして、掌は後頭部へ流れていく。 頭皮を撫でられ、体がびくりと撥ねる。 背中のあたりから、ぞわりと肌が粟立つのを感じる。 弓なりになる背を撫でられ、項から耳、こめかみへと乾いた掌が肌を往復する。 「俺は偉そうでも猫でもない。…それ、もっと。勝手にやめるな。 お前の手、気持ち良い。」 「ふふふ。君前世で猫だったんじゃないの。」 男の理屈が通るのならば、彼は猫で有った自分の飼い主なのだろう。 そうでなければ、こんなに男に触れられることが好きだなんて思えるはずはない。

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