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あなたが好きだと言ってるじゃない〜承〜8
*
どんよりとした気持ちのまま、相変わらずの熱帯夜の中を帰路(きろ)についた。
あれから医局に戻ると、部長は平然とした顔で、いつも通りだった。
ボクも極力いつも通りにしていたつもりだけど、自信はない。
初めて好きな人と、キスをしてセックスをした。
想像したような天にも昇るような幸せな気分になんか、ならなかった。
それはきっと、部長がボクをどう思っているのか、全然わからないからだろう。
心が通じ合わないと、セックスなんて空しいだけだった。
体の快楽だけを求めても、心は虚(うつ)ろになるだけだった。
部屋にこもって一人で泣きたい・・・。
そんなことを考えながら、電車に乗って家路を急ぐ。
病院から電車で30分のところに、ボクの家があった。
普通の何処にでもある一軒家。
二階がボクと兄弟の部屋。
玄関の鍵を開けてドアを開ける。
「ただいま」
か細い声で習慣になった言葉を呟(つぶや)く。
その途端、リビングのドアが勢い良く開いて、中から女の人が飛び出して来た。
「薫ぅ〜〜〜〜〜!!!お帰りなさぁい!」
小さい顔に大きな瞳。
高すぎず低すぎない小振りの鼻。
ぷよぷよの紅い口唇。
髪は真っ黒で背中の中程で、真っすぐに切り揃えられている。
前髪も眉毛のところで真っすぐに切られている。
日本人形のような清楚(せいそ)な感じと、少女のようなあどけなさ、それでも仄(ほの)かに色香を漂わせる、不思議な魅力を持った女性。
「会いたかったよ〜〜〜〜!!」
その人はそう叫ぶと、一目散にボクに駆け寄り、ボクの首に抱きついて来た。
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