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あなたが好きだと言ってるじゃない〜承〜9
「美影(みえい)ちゃん・・・!戻ってたの?」
「今日帰国するって言ったじゃない」
美影ちゃんは、ボクの顔に顔を近づけて、頬を膨(ふく)らませた。
ボクが、伊達眼鏡と前髪で顔を隠している理由の一つに、この美影ちゃんの存在があった。
美影ちゃんは高校生の頃からモデルを始めて、今では人気No.1のトップモデルになっていた。
今回もパリでのショーに参加していて、今日帰国したのだ。
ボクは大学に行って、今は研修医になったけど、美影ちゃんは大学には行かずモデルとして、第一線で活躍していた。
そんな美影ちゃんは、ボクの姉でもあった。
しかも、一卵性双生児の姉だった。
普通、一卵性双生児の場合、同性になるのだが、ボクと美影ちゃんは異性となった。
世界でまだ4例しか報告されていない。
色々な原因があるらしいが、親の染色体異常で起こることが、最近わかってきた。
元々一つの卵だったせいだろうか。
ボクは男なのに骨も細いし、筋肉もあまりない。
体毛も薄くて、ヒゲが生えない。
まあ、胸が出て来たりしてないし、男性器もちゃんと機能してるから、体に障害がある訳じゃないからいいけど。
どこか女っぽいボクは、小さい頃は同じ幼稚園の子にいじめられては、よく泣いていた。
そんなボクを助けて、いじめっ子を追い払っていたのが美影ちゃんだ。
美影ちゃんは、強くて優しくて、いつでもボクの味方になってくれる、ボクのヒーローだった。
そんな美影ちゃんがモデルとして、雑誌やテレビに出たりして、世間に顔が知られるようになると、ボクは自分の顔を隠した。
美影ちゃんと同じ顔だから。
それを誰かに指摘されるのも嫌だったし、美影ちゃんに迷惑がかかるのも嫌だった。
明るくて活発でみんなの人気者の美影ちゃん。
暗くて消極的で存在感の薄いボク。
外見はそっくりなのに、中身は正反対の双子。
誰よりも頼りになって、誰よりも優しくて、大切な人。
羨ましくて、妬ましくて、いなくなればいいと、思ってしまう人。
ボクは抱きついたままの美影ちゃんに、
「ショーはどうだったの?」
と、いつも通りに平静を装って訊いた。
部長とのことを美影ちゃんに気付かれる訳にはいかない。
「ん?バッチリよ。私が失敗する訳ないじゃん」
「うん・・・そうだね」
美影ちゃんは、訝しそうにボクの顔をじ〜〜っと見つめると、
「薫?何かあったの?」
「え?何かって、何が?」
ボクのことに関しては異常に勘の鋭い美影ちゃんが、眉間にしわを寄せている。
「薫、いつもより元気ない。病院で何かあったの?」
「何もないよ・・・ごめん。嘘。ちょっと難しい患者さんがいて・・・」
そう言うと美影ちゃんは、はっとしたように顔を強ばらせて、
「ごめん・・・そうだよね。そういうこともあるよね・・・」
と、ボクの嘘を信じてくれたようだった。
美影ちゃんに、部長のことを知られたくなくて、とっさに吐(つ)いた嘘だった。
美影ちゃんは、急に頭を何度か横に振って、明るい笑顔を浮かべた。
「薫、ご飯は食べた?」
「ううん、まだ」
「良かった!一緒に食べようと思って待ってたんだ」
ボクを元気づけようと、美影ちゃんは無理に明るい笑顔を作って、まだ靴も脱いでいないボクの袖を引っ張った。
ボクは靴を脱ぐと、美影ちゃんに引っ張られるまま、リビングに入った。
「お帰りなさい」
「お帰り!」
夕食の準備をしながら、母と姉が声がかけてくれる。
いつも優しく大きな愛で見守ってくれる母と、こちらもモデルみたいに美人でスタイルの良い姉が迎えてくれる。
「ただいま。魅華(みか)ちゃん、今日早いね?」
姉が珍しく早い時間に家にいるので、何気なく問いかけていた。
魅華ちゃんは、くすくすと楽しそうに笑うと、
「美影が帰国する日くらいは、一緒にご飯食べようと思ってね」
そう言うとパーマをかけた長い髪をかきあげた。
「そんなことより、薫、着替えて来なさい。手洗いと、うがいもね」
お味噌汁を御椀に人数分よそいながら、母が言ったので、ボクは素直に自分の部屋に戻った。
良かった・・・美影ちゃんに気付かれなかった・・・。
ボクが部長に恋していることを、絶対に気付かれたくない。
ボクは、深い深い、溜め息を吐き出した。
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