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あなたが好きだと言ってるじゃない〜転〜3
*
その翌日。
今日は部長は出張に出ていて、医局にはいなかった。
部長に会えないと、淋しくて心に穴が開いたみたいに、何もする気が起きなかった。
そのせいで失敗ばかりで、看護師さんに怒られっぱなしの一日だった。
こんなんじゃ、ちゃんとした医者になれないよね・・・。
自分の不甲斐(ふがい)なさに溜め息をつきながら、ボクは日誌を書いていた。
明日部長に提出しなくちゃいけないのに、失敗ばかりしたので書きたくなかった。
どうしようかな・・・でも嘘吐いたってどうせ看護師さんが報告するんだし・・・素直に謝るしかない・・・。
嫌々ボールペンを走らせて日誌を書いていると、ボク以外誰もいなくなった医局のドアがノックされた。
「はい?」
時刻は21時をすぎている。
こんな時間に誰だろう?
脳神経外科で夜勤はやっていないので、こんな時間に誰かが訪ねてくることは殆(ほとん)どない。
急患の時は、それぞれの携帯電話にかけることになっているし。
ドアが開いて入って来たのは、原くんだった。
「・・・やっぱまだいたか」
「っ・・・もう、帰る」
ボクは原くんから視線を逸らせて、日誌と机に広がった資料を片付ける。
あれ以来、原くんと二人で話しをすることはなかった。
二人っきりになることを、避けている。
原くんには悪いけど、ボクは原くんと二人きりになるのが、恐かった。
鞄に荷物を入れていると、急に原くんが後ろから抱きしめて来た。
背中に、部長以外の男の人の体を感じる。
「ちょっと・・・放して!」
「好きだ、薫、好きだ」
耳元で原くんが何度も言う。
体がビクッと震えた。
ボクは耳も敏感みたいで、背筋と腰に甘い痺れが走った。
腰抜けそう・・・!
一瞬抵抗できなくなったボクを、原くんは机に押し倒してきた。
ガタ・・・ガタガタンっ!!
机の上にうつ伏せに倒されて、体が圧迫されて一瞬呼吸が止まった。
「原くん・・・やめてっ!」
ボクは全身の力を込めて抵抗する。
原くんはボクの体を回転させると、無理矢理キスをして、両腕を机に押し付け、両足の間に自分の体を入れる。
ボクが抵抗できないように強い力で押さえ込んだ。
原くんの舌が、口の中に入って来る。
「んんっ・・・いやっ・・・んんむ・・・」
必死に逃げても、顎を捕らえられて無理に舌を入れられる。
舌が搦(から)み付く。
強く吸われる。
部長とは違う口吻(くちづ)け。
「はなし・・・・んんっ!」
逃げても逃げても、深いキスから逃げられなかった。
原くんはボクのワイシャツに手を伸ばすと、一気に引き裂いた。
ボタンが弾け飛ぶ。
床に、机にボタンが落ちる。
「やだ・・・嫌だってば、原くん!!」
拒否し続けるボクの手首を掴んで、
「羽屋総さんとは犯りまくってるじゃねぇか。オレにも犯らせろよ」
「何・・・言って・・・」
誤摩化そうとうっすらと笑う。
そんな誤摩化しが効かないことはわかっていた。
手首に食い込む原くんの手が、痛い。
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