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あなたが好きだと言ってるじゃない〜転〜6
名前を呼んでもらえたことに、今度はボクがびっくりしていると、部長はボクから視線を逸(そ)らして、眉根をきつく寄せた。
部長はボクを見ないように近づいてくる。
ボクは既に折れそうな心を奮(ふる)い立たせる。
「部長、あの・・・」
「早く帰れ。電車止まるぞ」
「あの、話しがあって・・・」
「今日はもう帰りなさい」
完全に拒絶されている。
部長はボクを視界にすら入れてくれない。
ボクが真っすぐに部長を見ていることが、わかっていても、ボクから目を逸らす。
ボクを見たくないみたいに。
ボクという存在を消すかのように。
部長はボクの横をすり抜けて、ドアを開ける。
手にしていた傘を開いて、行ってしまった。
「部長!待って下さい!」
ボクも傘を開いて外に飛び出した。
部長の背中を追う。
いつもそうだ・・・ボクは部長を追いかけてばかり・・・
二年前のあの日からずっと・・・ずっと・・・。
部長が自分の車に近づき、電子キーで鍵を開ける。
ドアを開けようとドアハンドルに手をかける。
部長の長い指が雨に濡れるのを見て、あの手で触って欲しいと、思ってしまった。
ボクは、部長に追いついてドアを開けようとする部長に、
「部長・・・あのボク・・・ずっとずっと・・・」
言葉が出てこない。
『好き』と言いたいだけなのに。
「・・・何なんだ?」
深い深い溜め息をついて、部長がボクを見た。
漆黒の瞳に、『迷惑』と刻まれていて、少しずつ勇気がしぼんでいく。
「あの・・・これ・・・もうすぐ研修終わっちゃうんで・・・お世話になったので・・・」
言うつもりのなかった、そんな言葉が口をついて出て来た。
肝心なことが何も言えない。
ボクは縋る(すが)ように部長を見つめていた。
「別に、そういうのいいから」
「でも、あの・・・・」
「悪いけど・・・お前と話したくない」
「・・・っ!」
眉根を寄せたまま、部長は吐き捨てるように言った。
嫌われている。
話しをしたくないくらい、ボクは嫌われている。
そこまで嫌われてるとは思わなかった。
ボクを抱く指が優しかったから。
ボクを見つめる瞳が、熱かったから。
耳元で囁く声が、愛おしかったから。
そんなに嫌いなら・・・どうして抱いたの?
そんなに嫌いなら、どうして『可愛い』と言ったの?
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