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あなたが好きだと言ってるじゃない〜転〜7
貴方が、ボクを抱いたくせに。
貴方が、ボクを犯したくせに。
貴方が、ボクを壊したくせに。
今更、そんなことを言うの?
気持ちを伝える勇気なんて、1ミリも残っていなかった。
当たって砕ける覚悟なんて、消えてなくなってしまった。
ボクは俯(うつむ)いて、泣かないように、泣かないように、必死で我慢していた。
こんなところで、泣きたくない。
絶対に、この人の前では泣きたくない。
泣いたらきっと、部長が困るから。
また、迷惑かけてしまうから。
黙り込んだボクを見て、部長は、ボクが諦めたと思い、車のドアを開ける。
その時、ドアがプレゼントの紙袋を引っ掛けて、紙袋を弾き飛ばしていた。
同じ手に持っていた傘も一緒に飛んでいく。
強くなる雨の中、紙袋が音を立てて濡れた地面に落ちる。
中から包装されたプレゼントが飛び出した。
「あ・・・」
部長が気まずそうに呟く。
ボクは、泥で汚れてずぶ濡れになったプレゼントを見つめて、部長を見上げた。
謝るべきかどうするか、困ったように眉根を寄せる部長に、ボクは微笑みかけた。
にっこりと笑ってあげた。
雨が、ボクの髪を濡らす。
顔も、瞳も、鼻も頬も、肩も胸も足も、全身を濡らしていく。
心も、秘めた戀(こい)も、全部濡れて溶けて消えてしまえばいいのに。
それでも、ボクは笑った。
これ以上、部長を困らせたくない。
だから、笑った。
ボクは、部長に背を向けて、ぐちゃぐちゃになった紙袋とプレゼントを拾うために、地面に屈(かふが)んだ。
もう・・・渡せなくなっちゃった・・・。
全部・・・終わった。
何もかも、壊れた・・・。
震える指で紙袋を、プレゼントを抱きしめた。
両腕で抱え込んで、抱きしめた。
壊れる何かを守るように、ボクはきつく抱きしめた。
失った戀を、哀れむように、抱きしめた。
泣いちゃダメ・・・絶対に、今は泣くな・・・。
ボクは立ち上がって、部長を振り返った。
胸に紙袋を抱きしめたまま、ボクは部長を真っすぐに見つめた。
「・・・すみませんでした」
それだけ言って、泣かないように、叫ばないように、にっこりと微笑んだ。
髪から雨が滴る。
目に雨が入ってきて少し痛い。
服が雨を吸い取って、少しずつ重くなっていく。
部長は何かを言いた気な顔をして、ボクを見ていた。
ボクは部長に何か言われる前に、踵(きびす)を返して出口を目指して走り出した。
傘を持って来るのを忘れた。
でも、今はいいや。
門を潜って、小径(こみち)を走り、大通りに出た。
ボクは、そこから更に一本脇道に入って、人気(ひとけ)がないのを確かめた。
駅の方向に歩きながら、涙が落ちるのに任せていた。
暗く街灯も少ない道を、ボクは、一人肩を震わせて歩いていた。
冷たい雨が全身を濡らす。
夏なのに今日は気温が低い。
渡すことができなかったプレゼントが、重い。
言葉にできなかった想いが、心の底でわだかまっている。
結局、言えなかった。
『好き』という言葉をいうのは、何て大変なんだろう・・・。
拒絶されるの覚悟でなんて、言えないよ。
ボクは弱いから・・・。
傷つきたくないから。
嫌いになりたい・・・あの人を嫌いになりたい・・・原くんを好きになれば良かった・・・。
あんなにボクを好きだと言ってくれてる。
原くんを、好きになれば良かった?
ボクはこの二年間、何をしてたの?
何が欲しかったの?
何がしたかったの?
もう、何もわからなくなっていた。
全部、忘れてしまいたかった。
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