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あなたが好きだと言ってるじゃない〜結〜2
ボクとしては全力疾走だったのだが、いかんせん靴が濡れて走りにくいのと、全身が冷えていたせいで、思うように足が動かなかった。
後ろから迫る足音があっと言う間に真後ろに近づき、腕を掴まれる。
強く引っ張られる。
ボクはプレゼントを落としそうになって、思わず足を止めた。
部長は、ボクが立ち止まると、そのまま腰を抱いて引き寄せた。
傘が風に煽(あお)られて、飛ばされて行く。
「いや・・・!放して!」
叫ぶボクの頭を引き寄せて、何故か口吻けをしてきた。
「んんん・・・・!ううぅ・・・・!」
部長の舌が口の中に入って来る。
いつものように舌を搦(から)めとられる。
心まで、強く吸われる。
どうして・・・?
どうして?
どうして?!
舌が痺(しび)れるほどに吸われ、溢れる唾液を雨が流していく。
ゆっくりと、口唇が離れる。
部長がどこか泣きそうな表情(かお)をしていた。
どうして、部長がそんな顔するの?
泣きたいのはこっちなのに・・・。
ボクは部長の顔を見ていられなくて、広い大きな胸に顔を埋めた。
部長はボクの腰をしっかりと抱きしめたまま、ボクの髪を撫ぜる。
指が優しい。
愛おしそうに髪を撫ぜる。
今まで、こんな風に触られたことはない。
ずるい・・・ずるい。
どうしてこんな・・・。
「・・・ずるい・・部長ずるいです・・・」
「薫・・・ごめ・・・」
「話しもしたくなんでしょう?なのに、どうして・・・優しくしないで下さい。もう、こんなことしないで下さい」
「違うんだ、薫」
名前を呼んで。
もっと呼んで。
もっと、もっと、ボクを呼んで。
「触らないで下さい・・・もう、ボクに触らないで・・・」
そう言いながらボクは部長を突き飛ばせない。
触って欲しい。
もっと、ボクに触って。
もっと深く、ボクに触れて。
「薫、これ」
そう言って部長はズボンのポケットから白いカードを出した。
「それ・・!」
「これ、本当?」
それはボクがプレゼントのリボンに挟んでおいたものだった。
言葉で伝えられなかった時のために、カードを買っていたのだ。
さっき落とした時にどっかに飛んで行ってたらしい。
「ここに書いてるの、本当?」
「・・・・・っ」
一言だけ、書いていた。
『好きです』と。
それだけ書くのが精一杯だった。
それ以上は、言いたいことが溢れて、溢れて、何も書けなかった。
部長はそれを見て、ボクを追いかけてきた?
どうして・・・?
「薫、教えて。本当のこと言って」
部長はボクをきつく抱きしめて、苦しそうに呟いた。
ボクは、どうしようもないくらい部長への想いが溢れて、止まらなくなった。
涙が止まらない。
心が止まらない。
ボクは泣きながら、
「・・・ずっと・・・好きなんです。部長が・・・好き・・」
やっと、言葉にすることが出来た。
ずっと言えなくて、ずっと溜めていた想いを、伝えることができた。
それだけで、涙が溢れた。
「・・・原は?」
「違います!原くんは・・・ただの同期です。何でもないんです。あの時は、無理矢理・・・ボクが、ボクが好きなのは」
「うん、わかった。オレも、好きだよ」
「うそ・・・」
「薫が好きだ」
部長はそう言うと、少し体を離してボクの頭を両手で包み込むようにして、上を向かせる。
部長が、微笑んでいた。
嬉しそうに、笑ってくれた。
つられてボクも微笑んだ時、部長が口唇を寄せて来た。
ボクは目を瞑って、部長を受け止めていた。
触れるだけの優しい口吻け。
冷えた躯(からだ)が、少しずつ暖かくなっていくようだった。
部長・・・信じていいですか?
その言葉を、この熱を。
ねえ・・・信じてもいいですか?
口唇を離すと部長は、ボクを抱き寄せて、耳元で囁く。
「今から・・・家(うち)に来ないか・・」
「でも・・・びしょ濡れですし・・・」
「・・一緒にいたい」
「っん・・・わかり、ました」
部長の熱い吐息が耳にかかって、ぞくぞくする。
ボクが抗(あらが)えないのわかってて、こういうことをする。
ちょっと意地悪。
でも、好き。
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