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第6話

「陽之、お前なにやってんだよ」  奇跡的にすぐにやってきたタクシーに乗り、できる限り最短距離の最速で居酒屋に着き、すぐ来るからと待っていてもらって店に飛び込んだ。  半個室の席で困ったようにグラスを傾けていた宇田川とべったりとテーブルに寝そべっている陽之を見つけ、駆け寄るなり頭を叩く。 「おい、起きろ陽之」 「んー……あれ、やいちゃんだ。なんでこんなとこいんの?」 「なんでじゃねぇよ。どんだけ飲んでんだよお前」  宇田川の前で、わざと名前を呼んだ。それに反応して、というかただただ酔っ払っている陽之が、普段の呼び方で返してくる。たぶんどういう状況かよくわかっていない。  仕事上飲み会が多い陽之は、朝まで飲んでたって滅多に酔わない。酔っても大体は陽気になって終わりだ。それを超えるほどに飲みすぎるとこういう状態になるけれど、そんなことほとんどない。  なんせ俺と付き合うきっかけがそれだったから。  酔い潰れて俺に持ち帰られて、なんだかんだで付き合うことになった。だからこそ気を付けるようにしていたっていうのに、なんでよりにもよってこいつとこうなるほどに飲んだっていうんだ。 「ご迷惑おかけしました。これは俺が責任持って引き取りますんで」 「ああ、えっと、はい。いやあの」  へらへらと緩んだ笑みを浮かべている陽之を抱え上げ、それから宇田川に向かって頭を下げる。ここまで酔わせた理由を問い詰めたいところだけど、今はとにかくこいつを連れて帰らなければ。お説教もそれからだ。  どれぐらい飲んだのか、赤い顔ではあるものの歩けない程度ではないらしい宇田川が事態に混乱して俺と陽之を交互に見る。その視線の行く先が一つ増えたのは、俺がテーブルに多めに札を置いたから。 「いやこれは。俺が誘ったんで」 「でも勝手に飲み潰れたのはこいつなんで、迷惑料として受け取ってください」  そしてもう一度頭を下げて、上げたと同時に抱えた陽之を見せつけるように引き寄せる。 「あと一応、コレ俺のなんで、今後は二人で飲むのやめてもらっていいですか」 「はあ……」  仕事上の付き合いしかないはずの俺たちがなぜ名前で呼び合い、こういう態度を取るのか。  よく頭が働いていないのかわからないふりをしているのかはわからないけど、こちらの用はそれで終わりだ。 「失礼します」  精々丁寧に頭を下げて宇田川に背を向けると、陽之を抱えて歩き出す。さすがに体格上完全に抱えることはできないから、支えて覚束ない足を進ませてやる。 「『コレ俺の』、だって。くふふふふ」  すると陽之が気の抜けた顔で笑いだした。酒のせいで顔が赤いからわかりづらいが、どうやら喜んで照れているらしい。 「お前状況わかってんのか」 「んー……急に来たやいちゃんが王子様?」  同僚の前で結構な宣言をしたということを今の陽之はまったく理解しておらず、ご機嫌で千鳥足だ。どうも酔ったこいつを俺が迎えに来た、というだけの認識のようだ。 「やいちゃんめちゃかっけー。ちょーヤりたい」 「うるせー酔っ払い」 「ふふふ、酔っちゃった。こんやは、かえりたくないの。具体的には、セックスしたい」  昼間の凛々しさはどこへやら。  ひそひそと内緒話をするかのように俺に囁いてくる陽之は完全にスイッチが入っている。こうなると性欲の解消が一番の重要事項となる。そんなわけだから、詰め込んだタクシーの中で陽之が余計なことを言わないように集中していたせいで、帰りの時間は行きの時間と違う意味で長く感じた。

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