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第7話

「せんせーい、この痛いのどうにかなんないすかぁ〜。おかげで、眠れないんですけどぉ」 深夜の病室で痛みに顔を歪ませ、お腹にドレインと言われる管を三本入れたベッドの中の少年が、ベッドの横に立つ永井を見る。  少年の名前は、(蓮見聡良(はすみあきら))。十七歳の割には、声が低く、大人びた顔をしており、ぱっと見た感じ、永井とあまり変わらないくらいに見える。  有名な製薬会社の部長の次男で、彼の病室はユニットバス、トイレ、応接セット、冷蔵庫、テレビのついた特別室といわれる個室である。  つい二日前にここで緊急手術をし、そのまま入院することになった。  病名は、化膿性虫垂炎。普通の盲腸よりも炎症が進んでいて、蓮見の場合は、虫垂の表面に膿が出ていた。  この患者の主治医は、永井である。  だが、主治医とは言っても、執刀医も患者の治療方針を考えるのも検査結果をチェックするのも指導医の一条である。それでも、患者を受け持つということは、 研修医にとっては、責任重大であり、やりがいを感じる。  永井は、彼の術後管理のため、三日連続で病院に泊まっている。三日間とも夜中になると永井はナースコールで蓮見に呼ばれていた。  「痛み止めの座薬効かなかった?」 「うん。全然。つーか、手術の時に毛剃られるし、昨日も今日も座薬だしよ。俺、ここに来てから、マジ羞恥プレイあいまくりなんだけどぉ?」 「そういわれてもね。年頃の男の子には、酷だけど、我慢してもらわないとね。」 蓮見を宥めるように永井が言う。 「我慢できないから、先生、呼んでんじゃん」 投げるように蓮見は言い、永井の右手を両手で引っ張った。 「そうだね。ごめん。もしかしたら、皮膚膿痕起こしてるかもしれないから、明日、エコーと血液検査をするね」 「注射、痛いからやだなぁ」 「検査しないとずっと痛いままだよ」 永井が、にっこりと笑い、蓮見の額に左手を当てた。 「…分かったよ。」 「寝れないのは、暑いのもあるのかもね。微熱も下がらないしね。ほら、汗吹いてあげるから」 「いいよ。自分でやる!」 永井が、蓮見の額の汗を持っていたタオルで拭ってあげようとすると、蓮見がタオルを奪い、照れくさそうに顔を背けた。 「そのタオルあげるから、どうしても眠れなかったら、また呼んで」 急に蓮見が淋しそうな目で永井を見つめる。 「先生、行くのかよ」 蓮見が、永井の右手を行かせないとばかりに両手で掴んだ。昨日も一昨日も永井は、蓮見に同じように引きとめられていた。  永井が思うに蓮見は、初めての入院で心細いのだろう。見た目が大人な分、中身とのギャップに永井は、おもしろさを感じていた。  クスクスと笑いたい気分を抑え、永井が主治医として告げる。 「うん。君も寝ないといけないだろ?いつまでも、俺がここにいるわけにはいかないよ。明日、また回診で来るからね。それまで寝てなさい」 「いいよ。また、明日も先生呼ぶから」 蓮見が、仕方なしといった感じで、永井から手を離した。 「困ったコだね。お大事に。ちゃんと寝るんだよ」 そう、言い残し、永井は蓮見の病室を後にした。  誰もいない医局に入り、永井は、隅にある二段ベッドまで歩くと、ベッドが空いてる事を確認した。そして、ベッドに白衣を引っ掛け、グレーのTシャツと白いスラックス姿になると、 眼鏡を枕元に置き、倒れ込むように下の段のベッドに入った。  数時間後、電話のベルの音で、永井は起こされた。  

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