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第13話※

案の定、鍵は開いており、永井は、恐る恐るドアを開けた。  そして、一歩闇の中へと踏み入れる。  瞬間、右横から霧状のものが、目にかけられ、涙と激しい目の痛みが永井を襲う。反射的に右手で眼鏡を外し、ケーシーのポケットにしまいながら、左手で目頭を押さえた。 カラン。静寂の中に金属製の硬質なものが床に転がる音が、永井の耳に響いたかと思うと、背後から、首を片腕で締め上げられた。ニットを着ているのだろうか。チクチクしたものが首筋に当たる。 「 やめろ!」 永井は、叫び、その腕から逃れようと目の痛みに耐えながら、爪を立てて両手で 剥がそうとする。しかし、その腕は太く永井の力では、びくともしない。骨格や筋肉の付き方からいって男の可能性が高い。 力でダメならと永井は、右足を後ろに下げ、思いっきり男の足を踏んでみたが、逆に男を煽っただけでしかなく、ますます首を絞める腕の力が強くなるだけだった。  涙をボロボロ零しながら、苦しさに声も出せないまま、それでも永井は男の腕を引き剥がそうと爪を立てて必死にもがく。しかし、背後の男は音ひとつ立てることもなく、腕ひとつで徐々に永井の意識を奪っていく。 そして、意識が朦朧とし、立つのもままならくなった頃、ガサリという音が永井の背後から聞こえてきた。  遠のいて行く意識の中でその音は鮮明に聞こえ、そして、真っ暗な視界の中で小さなシャッター音と共に閃光が走った。 カシャ。カシャ。カシャ。間髪入れずに永井の顔の前でシャッター音と共に閃光が3度走った。手放しそうになった意識や感覚が、光と僅かな音と共のおかげで少しだけ蘇っていく。 「……デジ…………カメ?」 目を必死に開け、視界に入った物を永井は息を吐くかのように呟いた。 「っ?!」 その声は男の耳に聞こえてしまい、デジカメの代わりにアイマスクをポケットから取り出し、腕を緩めることなく片手で器用に永井の視界を塞いだ。  アイマスクをされることに永井は、疑問を持った。自分を殺すだけなら、このまま首を絞めるだけで十分だ。それなのに、アイマスクを施すということは、まだ死なせてはくれないということなのだろうか? 力の入らない手で男で永井が抵抗を試みると、 男は、一旦永井の首から腕を開放した。 しかし、すぐにその手で永井の両手首を後ろで一纏めにした。  「はぁはぁはぁ……ど…して…こんなこと…」 「はあはあはあはあ」 やっと緩んだ気道に永井は、荒く息を吐き、胸を大きく上下させながら、必死になって酸素を求める。 息も切れ切れに問いかけるが、男から返答はない。 その代わりに荒く生暖かい息が、永井の首筋を掠める。 「?!」 「んっ…ふぅ……っ」 徐々に男の顔が近づくのを肌で感じ、永井は顔を逸らそうとしたが、男は強引に永井の顎を掴んで横向かせると、酸素を奪うように口唇を塞いだ。  そして、無理やりに舌を捻じ込み、逃げ惑う永井の舌を追いかけ、強引に絡めとった。  永井の中に殺される恐怖よりも別の恐怖が沸き上がってきた。  場合によっては殺されるかもしれないが、男の目的は、自分を殺すことではなく、まずは、犯すことにあるのだろう。  闇の中で、男に口腔を犯されながら、どうすれば、逃げられるかを必死で考える。  やがて、男の口唇が離れ、顎から手が離されると、永井は、今出来た隙が、チャンスとばかりに後ろへ頭を振った。  後ろで、ガツンと音がし、「うっ」という男の小さな呻き声と生暖かい感触を首筋に感じた。 その瞬間、両手首の拘束が若干緩められ、永井はなんらかのダメージをやっと男に与えられたのを確信し、 手を動かした。  しかし、男はすぐに反応し、再び腕で永井の首を絞め、両手首を下方へ引っ張った。  そして、ポケットから取り出した長い布のようなもので、片手で両手首を拘束した。 「やめて……くださ………い」 「はあはあはあはあ」 サワサワと、ケーシーの上から男の両手が円を描くように永井の薄い胸板を撫で上げる。 嫌がる永井の反応に男は興奮を隠し切れず、ますます息を荒げ、今度は永井の左耳を味わうように舌と口唇と歯で耳朶を嬲りだした。   ピチャクチャ。男の唾液の音が、耳に響く。舌が耳の中をまさぐり、生暖かい湿り気のある感触に不快感だけが募る。しかし、首を捻ることすら許されない。 「おねが…い……しま…す……はな…し…て…」  振り絞るように声を発し、男に懇願する。  男は、何も言わない。  見えないというのは、本当に怖い。  自分の知らないところから与えられる苦しみに圧倒的な腕力に何も出来ない無力さに永井は、心から涙が出そうになっていた。  間もなくして、男は、撫でる手をやめ、永井のそんな様を楽しむかのようにカシャリと再びデジカメで永井の顔を写した。それをポケットにしまうと、男は、まるでぬいぐるみを抱くかのように永井の身体を抱きしめた。 男とより密着した状態になり、布越しに男の勃起したモノが、腰に押しあてられる。  それは、まるで、これから先の展開を予測しているようで、永井は、腰を引き逃れようとするが、男は、永井の身体を前へ前へと押しだした。そして、押されるままフラフラと前へ進むと、膝より低いものに足があたった所で、男は一旦止まった。  一瞬だけ永井から男は身体を離したが、その刹那、永井の背中を膝で思いっきり蹴った。

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