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第14話※

 「うっ!」 永井は、衝撃にうつ伏せのままそこに倒れた。そこは、ひんやりとしたつるっとした感触で、思いのほかやわらかい。咄嗟に手をついたので、顔をぶつけることはなかったが、倒れたと同時に加わった腰の重みに恐怖感は、募るばかりだ。 「殺された方がマシだ!」 涙を流し、搾り出すように永井が叫ぶと、男は慌てたように永井の口を左手で塞いだ布の塊のようなものを口に押しこんだ。その上から念入りに手を縛ったものと同じ布を永井の口に巻いた。 「んんんっ」  パシャリ。男は、デジカメで永井を撮りながら、永井の首筋を撫でる。永井は唸り声を上げながら、抵抗を試みようと首を捻るが、男の指は、容易くケーシーの首のボタンをはずした。 ゆっくりと男は、何度もシャッターを切りながら片手でそのままケーシーのボタンを永井の無力さを思い知らせるようにわざと丁寧にはずしていく。すべてはずし終えると、男は、永井の手首を左手で下方に引っ張り、永井の身体を海老反りにさせた。  その状態で、ケーシーを腕の途中まで脱がし、白い肌を晒す。そして、いきなり右乳首をきつく摘み上げた。 「っっ」 永井は、痛さにまゆをしかめる。 男は、それを摘み、舌先で舐め、時に甘噛みし、時に指の腹で優しく撫で、執拗にそこだけを攻めはじめた。 赤く右乳首だけが、熟れていく。 「んんんっ」 痛みだけだった感情が、繰り返されるうちに下半身の疼きへと変化していく。  彼女がいたときも乳首を攻められるのは弱かったが、まさかこんな状況でも感じてしまう自分に永井は情けなさを感じた。それでも、右乳首の執拗な攻めに疼きは増す一方だ。自然に自分自身を下に擦り付けてしまう。  男は、永井の変化を察知したのか、右手を離し、右乳首を吸ったまま軽く自分の腰を浮かすと、永井のスラックスを下着ごと下へと下ろした。  そして、男は右乳首を攻める手を止め、永井の身体を仰向けにし、身体を足の間に割りいれた。 ガサゴソとポケットを探り、ダブルクリップを取り出すと、先走りで濡れ天を向いている永井自身の先端をそれで、挟んだ。 「んん〜っんんぅん〜!!!!」 永井は例えようのない痛みと苦しみで、頭を振り、身を捩った。 男は、ニヤリと笑みを浮かべ、そこめがけてシャッターを押す。  自分の顔を映していないのは、永井自身もわかった。  先ほどまでとは違い、下半身を写している事に永井はこれまでにない恥ずかしさに囚われ、顔を赤らめ、さらにもがいた。逆にそれは、膝をたて腰を浮かした状態になり、男に都合のいい格好へとなっていく。  男は、永井の腿を掴み、暴れる永井に黙れとばかりに親指を秘部にこじ開けるように進入させる。もちろん永井にとって、尻の穴を犯されると言う経験は、初めてであり、異物の進入に胃の中が溢れそうなくらいの圧迫感と裂けるような痛みが、走った。 「っんんっっ!!」 痛みに顔を歪め、永井は唸り声を上げる。男は親指で、内壁をぐりぐりとかき混ぜるながら、シャッターを押す。 「んんっ」 未開発の永井には、痛み以上の気持ちは沸かない。  少しして、それを抜くと、男はジッパーを下ろし、やっと自身を外に開放した。すでに勃起しているそれは、先走りで濡れ、永井を今か今かと欲しているようだ。  ジッパーの音に永井は、がくがくと足を震わせ、とうとうきてしまったという諦めと親指とは比べ物にはならないこれ以上の痛みへの恐怖が沸いてきた。  男は、永井の身体をもう一度、うつ伏せにし、無理やりに両膝を立たせ、四つん這いにさせた。足の間に跪き、白く小さく引き締まった永井の尻を両手で揉みあげる。男の熱く荒い息が尻の割れ目に降りかかる。そして、片手で外側へおもいっきり開き、元の状態より少し広がった穴を右太腿の付け根にあるほくろが映るようにシャッターを押す。  暴れる永井の細い腰を両手で押さえると、秘部へと自身を挿入して行った。  「んんっ!!!」  身体が裂けるような想像以上の痛みに永井は、頭を振り、肩を震わせる。永井と男の結合部から、血が滴る。  男は、血を潤滑剤代わりに容赦なく永井に自身を打ち付けていく。  ぐちゃずちゃ。交わる時の卑猥な音とシャッター音を耳元で聞きながら、あまりの痛さに永井の意識は、遠のいていった。  白いカーテンの隙間から、光が差し込む。  永井は、ゆっくりと瞼を開け、まだ少し痛みの残る目を凝らし周りを確認した。  頭上には、見慣れた病院の白い天井があり、側には、黒いテーブルが見え、自分が今L字型の黒い皮のソファに寝ていることが分かった。  たしかにここは、特別室だ。  自分が、犯されたのはソファだったのかと永井は思う。と、同時に痛みに意識を失う前のあの恐怖と痛みと苦しみが、蘇り、口唇を噛み締め、それを堪えた。 「もう終わったんだ。」と、自分に言い聞かす。  そして、ポケットの中から眼鏡を取り出し、無事を確認すると、それを掛けた。  身体には、だるさと痛みが残るが、いつまでもここにいるわけにはいかないと永井は、上体を起こした。  備え付けのユニットバスに行き、鏡で自分の姿を確かめてみる。  まるで、何事もなかったかのようにボタンひとつ欠けていることなく、病室に入る前の状態で衣類を身につけている。若干べたつくが、血液や体液は、綺麗に拭き取られていた。 「あれ?ケーシーの首のところに赤いものがついているけど?」 項に触れるとすでに乾いてはいるが指先に赤いものが触れた。  あの時の自分の行動を思い出し、永井は、抵抗しようと頭を振ったときに一瞬だけ力が緩んだ事を思い出した。一瞬だけ力が緩んだ理由は、鼻血だったのかもしれない。と、永井は思案した。 目を凝らすが、血痕は自分の項とケーシーの首の後ろに僅かに残されたものだけのようだ。 血は洗えば落ちるが、両手首に残された赤紫色のはっきりと男の指の跡は、隠そうにも難しそうだ。   どう隠そうかと永井は、考える。左手首は時計でごまかせるとして、右は、長袖を着てごまかすしかない。 「そういえば、腕時計は?」 就職祝いに母に買ってもらった腕時計を腕にしていないことに気づき、辺りを見回すが、落ちている気配はない。ふと、ポケットを探ると、ガラスにひびが入り、壊れた腕時計が入っていた。 母親に申し訳ないと言う気持ちが募り、 「母さん、ごめん」」 と、小さく呟き、そっと病室を出た。  昨晩の様子を伺いに看護部に寄ってから当直室に戻ると、衣類をベッドに脱ぎ捨て、シャワー室に駆け込んだ。  とにかく永井は、自分の身体を洗いたかった。 勢いよくお湯を出し、まずは、 耳を洗い、首の後ろの血痕を念入りに洗い流した。そして、男にいいように弄ばれた右乳首を見やると、そこは、まだ赤く熟れていた。 念入りに石鹸で洗いたい気持ちもあるがシャワーの湯が触れるだけで敏感に反応しそうになってしまうので、簡単にそこは洗い流し、。尻の後ろへとシャワーを移動させた。 「痛っ……。」 傷口にシャワーのお湯が染み、永井は眉をしかめつつも念入りにボディーソープを摺りこんで、洗い流していく。  あの痛みと圧迫感と屈辱感は、洗い流したくても洗い流せない。   確実に犯人は、永井を辱めるのが目的だった。それは、永井の知らないだれかなのかそれとも身近な人間なのか永井には、見当もつかないが、今は犯人が誰かなど考えたくなかった。  もう二度とあんな目には遭いたくない。ただそれだけが永井の今の気持ちである。  シャワーを終え、ベッドに戻り、新しい下着を履き、昨日着てきたグレーのシャツとさっき履いていた白のスラックス姿になる。  そして、脱いだケーシーの首の後ろについた直径1cmくらいの血痕をよく見つめ、 「どっちにしろ、しばらくケーシーは着れないな。」 深く溜息をついた。  コンコン。  「は…はい」 ノック音が聞こえ、永井は、身体を強張らせ、か細い声で返事をする。 「起きてたのか。入るぞ」 「ちょっと、待ってください」 ノックをしたのが、一条だと分かり、永井は、落ち着きをとり戻し、脱いだ衣類を紙袋に詰め込みながら、答える。 一条は、永井の返事など無視し、ドアを開けた。 「まだ、開けないで下さいって行ったのに」 紙袋をベッドの下に下ろし、後ろを振り向く。 とにかく見られたくなかった。 「優雅に朝っぱらからシャワーか」 からかうように一条が言い、永井の近くによると、ベッドに腰掛けた。 「なんで分かったんですか!?」 「なんでって、ほらっ、濡れてる」 腕を伸ばし、襟足の髪を一条が、指先でサラリと撫でた。後ろからのふいな感触に一瞬にして、永井の表情が固まる。 「永井?」 一条は、永井の表情の変化を感じ取り、怪訝な顔で永井の顔を覗き込む。 「あ、本当ですね。髪の毛濡らさないようにしたんですけどね。俺のことよりもこんな朝っぱらからご出勤だなんてどうしたんですか?」 永井は、悟られないように笑顔を作り、自分の襟足に触れた。 「今日中に提出しなければならないものがあって、そのデータを医局に忘れてしまってな。早めに来て仕上げようと思ってさ」 「そういうことでしたか。それは、終わったんですか?」 「まだだ。看護部に寄ったら、研修医の手を借りるほど、忙しくなかったてことを聞いてな。永井の寝込みでも生き抜きに襲おうかと来たわけだ」 襲う…この言葉に永井は、過剰に反応してしまい、表情を強張らせた。 「…襲う?」 震える声で永井が言う。 「そんな怖がるなよ。冗談だよ。冗談。まあ、襲うなんて男相手に使うのは、気持ち悪いよな。悪かった」 一条が、永井の肩を抱こうとした時、永井は、一条から逃げるように立ち上がった。 「来てもらって、悪いのですが、少し寝たいので、出て行ってもらえませんか?」 「……。」 一条を見下ろし、永井が言う。一条は、動くことなく真顔で永井を見上げた。 「目が腫れてるな。泣いたのか?」 「いえ。寝不足なんです。」 「昨日、寝坊した挙句、寝当直だったて言うのにか?」 「はい。今日は、寝付けなかったので…」 永井は、一条から目を逸らした。これ以上、一条といると、自分の変化に気付かされそうで怖かった。一番、一条には気付かれたくないと永井は、思った。 「悩み事か?」 「もし、あったとしても、先生には関係のないことです」 「関係ない…か。どうやら、俺は思いあがってたようだ。あの車でのことで少しでも永井が俺に心を開いてくれるようになったと思ってたんだがな」 永井は、冷たく言い放つ。その言葉に一条は、淋しそうな目で、永井を見つめた。 「勘違いしないで下さい。たしかに指導医として、一条先生のことは信用していますが、プライベートは別です」 「そうか。じゃましたな」 一条は、静かに言うと、当直室を出て行った。

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