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第18話

 その声に反応し永井は、慌てて携帯を切った。 「すみません。長電話してしまって」 「ううん。病院からの割には随分、楽しそうに話してたね。」 「いえ。そんなでも……。」 「ふふ。隠さなくてもいいよ。それよりも、ラストオーダーなんだってさ。どうする?まだ一本残ってるから、それ呑んだらおしまいでいいよね?」 「はい……。小木さんにお任せします」 「じゃ、いこうか。ほら、肩貸してあげるから」 「大丈夫です。ひとりで歩けます。」 「大丈夫じゃないから、言ってるんだよ。君が電話かけに席を立った時、後ろから見てて結構ひやひやしたんだよ。」 「そんなに僕酷かったのですか?」 「うん。だからねっ。」 「!?」 小木が、永井の腕を掴み、自分の肩に廻させ、腰に腕を回す。後ろからの感触に反射的に永井の腰が、跳ねそうになるが、小木に嫌な思いをさせてはいけないと、自分を押さえつけた。 「腰、くすぐったかった?」 「……す、少し」 永井は、自分と小木をごまかすために笑顔を繕う。 「永井くんって、首と腰が、細いから華奢に見えるけど、ただ細いだけじゃなくて、ちゃんと筋肉もついてるし、バランスがいい身体してるよね。僕なんか上半身に筋肉がつきやすいから、バランス悪いし、君みたいなスタイルは、羨ましいよ。」 「俺は逆に小木さんみたいな方が、男らしくって羨ましいです。女性だったら、泣くなら、僕みたいな薄っぺらいのよりも小木さんの方が頼りたくなると思います。」 永井の脳裏に先程すがりついていた泣いた胸板の厚さが、過る。 「君にそう言われると嬉しいな。また泣きたくなったら、いつでも胸を貸すよ」 「もう大丈夫です。もう泣いたりしませんから。」 泣き止んで、小木と目があった瞬間を思いだし、永井の頬はより一層赤くなった。   最後の一本の酒を呑み終えると、永井は、とてつもない睡魔に襲われた。 小木は、相変わらず平然としている。 「……何から何までしていただいて、すみませ……ん……。」 会計は、小木が済ませ、永井は、小木に支えられるまま彼が呼んだタクシーに乗り込んだ。 「いいよ。こっちが誘ったんだから。大丈夫。ちゃんと送り届けるよ。」 「いいですよ。そんな、小木さんの方がここから近いのに……。俺は……小木さんが降りた後に……ひとりで…………。」  そして、タクシーに乗り込んで間もなく、永井は小木の肩に凭れたまま睡魔に飲まれていった。  15分程でタクシーは、小木が住むマンションに着き、念のため小木が、肩を揺すってみたが、静かな寝息をたてたまま永井は、起きる気配を全く見せない。   小木は、運転手に支払いを済ませ、永井の身体をおんぶすると、自分の部屋へと歩いていった。  「気持ち良さそうに寝ちゃって。よっぽど疲れが、溜まってたんだね。ほら、もう少しでベッドだよ。」 カチャリ。ドアを開け、永井の背中を撫で、満足げに笑みを浮かべる。 そして、灯りをつけて、ベッドに永井の身体をゆっくり落とした。小木は、その横に座り、静かに眠る永井に顔を寄せた。 「眼鏡外そうね。カーディガンも脱ごうか。白いシャツがよく似合うね」 永井が、身に付けていた眼鏡とカーディガンを枕元に置く。 「安心して。今夜は、何もしないよ。」 「ん……。」 口唇を指で撫で、耳元で囁くと、永井がわずかに首を捻ったが、すぐに規則正しい寝息に戻った。 「今日は君にシャツを濡らされてしまったから、ちょっとだけお返しさせてね。んんっ……」 小木は、シャツの上から永井の左右の乳首を交互に舌先で舐めていく。 「固くなってきたよ。右の方が少し大きくて赤いね。」 「ぅんっ……」 次第に白いシャツは唾液で濡れ、乳首だけが、シャツ越しに透けはじめてきた。 右乳首をシャツの上から摘まんだ時、永井の口から、声が漏れた。  短い声だが、鼻にかかった卑猥な響きのある声である。 「ダメだよ。そんな声だしちゃ、襲いたくなるだろ。それにしても、寝てるって言うのに敏感なコなんだね。これ以上は、今日は、止めておこうね。」 小木は、名残惜しげに永井から身体を離した。 「いい眺めだ。灯りをがあると、君のいやらしさが余計に増すね。」 恍惚とした笑みを浮かべたが、 「ああ。この時計はじゃまだね」 腕時計が目にはいると瞬時に笑顔を凍らせた。そのままそれをはずし、無造作にそれを枕元に置いてから、手首に口付け小木はベッドを降りた。 そして、永井のバックの中から、携帯を取り出した。  眉間に皺を寄せたまま、着信履歴と送信履歴をチェックし、一条の携帯番号とメールアドレスをメモする。  ブルブル。携帯が振動した。  小木の予想通り、一条からの着信だった。  小木は、忌々しげに携帯を切る。少ししてからまた振動したので、今度は携帯を切った後、その着歴も消し、電源を落とした。

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