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第23話
ブルブル。永井の携帯が、振動した。
「もしかしたら、噂をすればなんとやらかもしれません」
「そうか。もし、そうなら、メールアドレスをメモしてくれ」
「はい」
永井は、片手だけでバッグから、携帯とメモ帳とボールペンをだし、携帯の画面を確認した。案の定、それは、メールだった。
件名は、『記念写真』とかかれており、深く深呼吸をした後、画像を開いた。
それは、背中で手首を包帯で縛られ、白く小さく引き締まった尻を高く付き上げた格好のまま男の肉棒が尻の中心に突き刺さっている画像だった。結合部からは、血と精液が、入り混じったものが、滴っており、生々しく、非常に淫猥である。顔は、見えないが、右太腿の付け根のほくろが、永井本人からすれば、尻の主が自分だと分かる。
画像を見ているだけで、昨日よりは、和らいだはずの尻の奥が裂けるような痛みが、記憶とともに甦ってくるようで、永井は、眉をひそめた。
「大丈夫か?メアドだけメモしてくれればいい。見たら、早く消してしまえ。」
「すみません。大丈夫です。メモしますね」
「ああ」
永井の些細な表情の変化を感じとり、一条は、優しい声音で永井に話しかけた。永井は、一条にこれ以上心配をかけてはならないと 作り笑顔で言葉を返し、メールアドレスをメモした。
「あの、先生?」
「どうした?」
「先生、メモしてみて気づいたんですけど、先生に送られてきたメールとドメインが、同じですね。それとこの画像なのですが、犯人のヒントになるかはわからないのですけど……」
「どんなことでもいい。話してみろ」
「画像に拘束された俺の手首が写ってるのですが、どうやら、あの時、拘束するのに使用されていたものは、包帯だったみたいです。」
永井は、 自分の手首を目の前に翳し、眺める。
「包帯か。犯人が病院関係者と決め付けるのは、よくないが、普段は、鍵がかかっているあそこに出入りできるとなると、関係者の可能性は益々濃厚だな。永井、手首は痛むか?」
車が、渋滞にはまり、一条は、一旦車を止めると一腕を伸ばして永井の手首をゆるく握り自分の方へと引寄せた。永井は、されるがまま自分の手を一条に委ねた。
昨日よりは、薄くなったとは言え永井の手首には、縛られたような赤紫色の跡が、痛々しくはっきりと残ってしまっている。
「大丈夫です。すみません。やはりこれ目立ちますよね?包帯巻いたら逆に目立ちそうですしね。なんとか袖で隠しますね。」
「お前は悪くない。悪いのは犯人だろ?」
永井が、微かに微笑んで見せると一条はその指に自分の指を絡め、そのまま膝の上に乗せた。
一条の行動に永井の頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。
「もう、先生、車動きますよ。俺の手返して下さい。」
「顔赤いぞ。まったくお前はかわいいやつだな。」
一条は、からかうような口調で言い、その口調とは裏腹に壊れ物でも扱うかのようにそっと、永井の手を永井の元へ戻した。
「そんな大事に扱わなくても、大丈夫ですよ。」
「ついな」
再び運転を始めた。
しばらく永井は、顔の火照りが収まるまで窓の外に目を向けていた。
そして、病院に近づいた時、心に沸いた疑問を口にした。
「犯人が、見つかったら、どうするのですか?」
「それ相応の責任をとってもらう」
一条は、静かに低い声で答えた。
「先生?」
その声に不穏な響きを感じ、永井は、不安げな眼差しを送った。
「安心しろ。殺すなんていう馬鹿なことは、考えてない。仮に俺は医者だ。命の尊さは理解してるつもりだ。ただ永井にもう二度と手出しをさせないようにするだけさ。そうやって、画像が送られてくる度に怯えているお前を俺は、痛々しくて見てられない。俺は、お前が笑顔でいられる日常を取り戻したいだけだ。」
「先生……」
最後の赤信号で、すかさず永井は、一条の手を掴まえると、先程一条が、自分にしたように指を絡め、自分の膝に乗せた。
「顔が赤い割には、相変わらずお前の手は冷たいな。時間をかけて温めてやりたくなるよ」
一条は、ぎゅっと手を握り返した。
信号が、変わるまでの一時だったが、一条の手の温もりは、永井にとって痛みを忘れる緩和剤のような効果をもたらしていた。
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