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第27話※

 「結構いい時間になっちまったな。」 リビングに足を踏み入れるなり、一条は壁掛け時計を見上げた。 時計の針は、夜の11時30分を差している。 「そうですね。こんな時間に来ていただけるなんてなんだか申し訳ないです。」 「それは、こっちのセリフだ。押し掛けて迷惑だっただろ?」 「そんな事ないですよ。先生のご厚意嬉しいです。俺は飲み物でも持ってきますので、ソファに座ってて下さい。」 永井が冷蔵庫に向かおうと、方向転換をするが、 「いい。今は水分よりもお前を補充したい。」 腕を掴まれ、そのまま一条の胸に抱きとめられてしまった。 「これじゃ、朝と同じですよ。」 「違うだろ?朝は後ろからだったが、今は正々堂々前からだ。」 「たしかにそうですね。」 一条の手は、緩く永井の両肩に触れるだけである。 永井には、一条が、背中に触れないように気遣ってくれているのがありありと分かり、その優しさにますます一条への想いが深まっていくのを感じた。 (先生、ありがとうございます。) 心の中で呟き、少しでも一条の気持ちに応えられるようにとその背中に腕を回し、顔を首の後ろに埋めた。 「……。」 「……。」  その身体は熱く、少し汗ばんだ襟元からは、汗の匂いが永井の鼻先を擽る。決してそれは、不快な香りではなく、むしろ安堵を感じ、永井はもっとその香りや体温に包まれていたいと、腕の力を強くした。 「……永井」 「……。」 永井の反応に一条も自分への気持ちの変化を察知し、低く色香のある声で囁くように名前を呼び、永井の背に緩く腕を回した。  そして、耳の後ろの匂いを嗅ぐように顔を埋めた。  女性とは違い、隙間のない重なりに一条の香りや体温が、より一層深く濃くなっていく。  永井は、瞳を閉じ、その安堵感に身を委ねた。   グゥー。 暫くして、静寂を切り裂くように永井の腹が鳴った。 「……すみません」 「いや。くっ……ははは」 永井は、腕を解き、俯いた。そんな永井の様子に一条は、笑い声をあげる。 「もう、先生ひどい。なにも笑わなくても。」 「あはは。すまない。笑ったお詫びと言ってはなんだが、薬もあるし、何か軽いものでも作らせてくれ。」 「ええ?! 先生がですか?」 「俺が、料理をするのはそんなに意外か?」 「…はい。」 「俺だって。休みの日くらいはするさ。お前も随分とはっきりと言うようになったな。」 「すみません。」 「そんな事で謝るな。俺は、嬉しいんだ。少しずつだが、お前が俺に心を開いてくれるようになって。ほら、シャワーでも浴びてきたら、どうだ?その間に作っておくから。」 「はい。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。先生はシャワー浴びられますか?」 「俺を誘ってるのか?」 「違います。そんなんじゃありません。スーツのままでいるよりも着替えた方がいいかと思って。」 「それなら俺は、今朝きてた自分の服に着替えるよ。シャワーを浴びたい気持ちはあるが、今晩は、一旦うちに帰るからいい。なあ?永井、スーツを入れられるような紙袋か何か袋があったら、もらえないか?後日クリーニングして返すよ」 「そんな返して頂かなくて結構です。そのスーツでしたら、先生に差し上げます。タンスの肥やしにするよりも先生のような着こなして下さる方が持っていた方がいいですよ。」 「男に貢いでもらう趣味は、ないんだけどな。ま、くれるというなら、もらっておこう。その代わりと言ってはなんだが、腕時計やるよ。」 「そんな高価なものいただけません」 「俺だって、いいスーツもらったんだ。お互い様だろ?……ちゅ」 「!?」 一条が、永井のネクタイの結び目に手をかけ、そのまま引寄せると、首を傾け宥めるようにわざとらしくおとをたてるようにこめかみに口付けた。 「……わかりましたよ。物々交換成立でいいです。」 一条の熱いまなざしを受け止め、一条の手に自分の手を添えたまま永井が、観念したように言う。 「ありがとう。大事に着させてもらうよ。」 「……。」 するりと永井の首にかかったネクタイを抜きながら言い、今度は、口唇にそれを落とした。  ほんのりと頬を染めたまま自分を受け入れてくれている永井に一条は、愛しさが込み上げてくる。もっと深く永井のことを知りたいと思うが、 心の傷も身体の傷も癒えるまでは、深く触れる事は、抑えなくてはと自分に言い聞かし、永井からそっと口唇を離した。  「ひき止めて悪かったな。シャワー浴びてきていいぞ。」 一条が、ほどいたネクタイを永井に手渡した。 「ありがとうございます。あの、作ってくださるのに申し訳ないのですが、あまり食材ないかもしれないです。冷蔵庫の中に水とウーロン茶があるんで、そんなので、よければ」 「ああ。分かった  一条が、黒のビキニ姿になった時、自分の着替えをクローゼットから持ってきた永井が、部屋から出てきた。  目が合ってしまい、いつも仕事中に見慣れてるはずの一条の裸なのに永井は、なぜか照れてしまった。  「そんなかわいい反応するなよ。俺の裸なんて見慣れてるはずだろ?」 わざとらしく一条は、永井に一歩近づいた。 「別に照れてなんかいません。」 「……。」 言葉とは裏腹に永井は、一条の逞しく男らしい筋肉質な身体から、少し目を逸らしてしまう。永井の反応を楽しむかのように一条は、口元を歪め、永井を見つめた。  「もう、からかわないで下さい。しゃわー浴びてきます。先生もいつまでもそんな格好しているとかぜひきますよ。」 永井は、頬を赤らめたままバスルームへと向かった。  シャワーを終え永井が、リビングに戻ると、ウーロン茶の入ったコップと水が入ったコップと食パン一枚を半分にして作ったツナサンドが二つ用意されていた。 一条は、ソファに座り、ウーロン茶を飲んでいる。  「どうしたんですか?」 テーブルのものが目に入った途端、永井は、驚きの声を上げてしまった。 「夜の分の薬、飲んでなかっただろ?何も食べてない時は、牛乳で薬を飲むのもいいが、ここには、牛乳がないしな。俺も小腹がすいたし、勝手に物色して作らせてもらったよ。ツナサンド食べれるよな?」 「は、はい。ツナサンド好きです。本当、すみません」 永井が、ソファの側に立ったまま、頭を下げた。 「言ったろ?今日は治療しに来たんだよ。ほら、突っ立てないで、座れ」 「はい」 永井は、一条の隣に座り、「いただきます」と、小声で言い、ツナサンドに被りつく。その様子を横目で見ながら、一条もツナサンドを食べた。 「先生、おいしいです」 作り方は、特に凝っていないはずなのに永井には、特別な味に感じられ、自然に笑顔がこぼれた。 「そういって、もらえて嬉しいよ。俺も永井の笑顔が見れて、作った甲斐があったてもんだな」 目を細め、一条は瞬間の幸せをかみ締めるように言う。  ツナサンドを食べ終え、永井が、錠剤を呑むのを確認すると、一条が皿やコップをシンクに持っていった。 「あ、洗うのは、俺がやるんでいいです!先生にそんな洗い物なんてさせられません!」 永井が、一条の後を慌てて追いかけた。 「洗い物くらい俺だってするぞ」 キッチンにもたれ、永井を見る。 「そういう意味で言ったんじゃないですよ。洗い物は俺がやるので、先生は、座ってて下さい!」 一条の両腕を掴み、説得するように永井が言う。 「クスクス。分かったよ。本当にお前は、大事な所で譲らないよな。そういうところ、好きだけどさ」 最後に永井の耳朶に口唇を近づけ言うと、一条は、ソファへと戻った。そして、自分の鞄から、青い小さな紙袋を取りだす。    ニヤリと、笑みを浮かべたとき、永井が、こっちに戻ってきた。  永井は、すぐに紙袋を視界に捕らえ、複雑な表情をした。 「やっぱり、塗るんですか?」 「ああ。ここなら、人が来る心配もないし、お前だって、恥ずかしくないだろ?」 チューブを見せ付けるように取り出す。 「そうですけど…。いや、そんなことないです!先生にされること事態が恥ずかしいんですからっ!」 「医者が、何言ってるんだか。お前だって今まで患者のを診てきたんだろ?」 「分かってはいるのですが…。」 「とっととしないと寝る時間なくなるぞ。」  「え?うわぁっ!?先生、下ろしてくださいって!!」 一条が、チューブをジーンズの後ろポケットの突っ込んだまま立ち上がり、永井の身体を横抱きにした。突然のことに驚きの色を隠せずにいる。 「暴れると落とすぞ。」 脅すように言い、永井が抵抗しなくなくなると、隣の部屋へ永井を運んだ。そして、セミダブルのベッドに永井の身体をゆっくりと下ろした。  「先生って、本当に強引ですよね」 上体を起こし、上を見上げながら、永井が唇を尖らす。 「何とでもいえ。俺は、極力、お前が恥ずかしくないように努めてやってるんだから。いいのか?あまり言うと、着てる物全部、剥ぎ取るぞ」 「もう、分かりました。早く済ませてください」 永井は、一条に背を向け、横向きに寝ると、前は極力出さずにスウェットを下着ごと尻だけが見えるようにおろした。二度目といえど、この恥ずかしさには、慣れないし背を向けるというのは、 何をされるか分からない恐怖がある。右手を後ろに伸ばすと、一条が指先を緩く握った。その温もりに永井は安堵し、股間を隠すように膝を胸まで曲げた。 「怖くないから。大丈夫。後ろにいるのは、俺しかいない」 一条は、ベッドに座ると、催眠術をかけるように永井の耳元に囁く。 「いいか?挿入するぞ。力抜け」 「はい。」 言われるまま永井は、小さく口を開け、薄く息を吐いていく。そして、一条は、片手でチューブから薬を出し、中指にたっぷり乗せるとそれを永井の尻の穴へとゆっくりと侵入させていく。 やはり昼間に経験したとはいえ、指を挿入した瞬間の違和感は拭えない。 思わず力を入れてしまいそうになるのを我慢する。 「痛いか?」 「いえ…大丈夫です」 一条が、優しく問いかけるついで永井の耳朶を甘噛みする。違和感の変わりに途端にジンとした痺れが、永井の下半身を駆け巡る。眉を寄せそれに耐える。  僅かな変化を一条は感じ取りながらそのまま内壁に薬を擦りつけるように指を永井の中で巡らせた。締め付けのいいそこは、中指一本でもかなりきつく、一条の欲望を刺激する。 冷静を保つつもりが興奮のあまり、永井の指先を握る手に自然に力が込められていく。 「先生、指痛いですよ」 「ああ。悪い」 「いたっ!!」 浅く息を吐きながら、一条が手を緩めるが、裂傷場所に一条の指先が触れると、永井は、逆に一条の手を握り返した。と、同時に締め付けもきつくなる。 「痛いか?裂傷場所だもんな。もう少し優しくしないとな」 「あっ…」 一条の指先が、そっと労るような動きで裂傷場所を撫でる。永井の中にただの痛みが、痺れにも似た気持ちのいい痛みに変化していく。  永井は思わず漏れた声に耳まで赤く染め、額を膝につけた。 「どうした?」 指を止めることなく一条は、永井の耳元に低く上品な声とともに息を吹き込む。永井は、その感触に首を振り、口唇を噛み締め肩を震わせた。 「っ…先生、もう薬いいです。指を抜いてください。でないと、俺…」 眉をしかめ、膝に痺れてきた自分自身を擦りつけながら、掠れた声で永井が告げる。 「でないとどうなるんだ?いいから、言ってみろ。もしかして、他のところが、痛くなってきたんじゃないのか?」 「ああっ…」 快感を押し殺そうと膝に顔を押し付け、背中を震わせる永井に一条は、意地悪げに言い、滑らかな感触のうなじを舌で、骨に沿ってなぞった。  すると、永井が首を逸らし、一条の手を握る手にぎゅっと力を込め、甘い響きのある嬌声をあげた。そして、ゆっくりと一条の方に首を傾け、潤んだ瞳で一条を恥ずかしそうに見つめた。その顔は一条の劣情をより一層煽る。 「見せてごらん。すぐその痺れをなんとかしてやるから」 「先生、ひどい…」 「文句なら、あとで聞くよ」 一条が、優しく言い、指を永井の中から、一旦、抜くと、肩を抑え、永井の身体を仰向けにさせた。スウェットから半分でかかった永井自身が、上を向き窮屈そうにしている。 「……。」 何も言わず、一条を見上げる永井と視線を絡めたまま、一条は、永井の腹を跨ぎ、ゆっくりと腰を下ろし、そのまま、後ろ手でスウエットから先走りで濡れている永井自身を開放させた。 「ほら、こうすれば、あまり見えなくていいだろ?」 永井自身を穏やかに扱きつつ、もう一方で、永井の眼鏡をはずし、傍らに置いた。 「…でも、先生には、俺の顔みられてるんですよね?…はぁぁ…っ」 「ああ。よく見えるよ」 「あうっ…」 切羽詰った顔で、永井が言うと、一条は開いている手で、Tシャツ越しに永井のすでに勃起している左乳首を優しく撫でた。一瞬にして、永井自身の増量は増す。シーツを掴み、首を振り、目を伏せ耐えるように永井は唇をかみ締めた。 「そんなことしたら、口唇が切れるぞ。そんなに俺に聞かれるのが、嫌なのか?」 「……。」 快楽に溺れている表情のまま、永井は、コクリと一条を見て頷く。 「素直じゃないな。こんなにしてるって言うのに。吐き出したほうが身のためだぞ」 「んんっ」 「んっ…」 手の動きは、やめず、一条が言うと、永井が一条の背に両腕を廻すと、ねだるようにでも、自分の声は聞かれないようにと、自ら、一条の口唇を塞いだ。 髪の毛を乱すように指を動かし、噛み付くように口唇を吸われ、一条は、永井自身を扱く手も乳首を撫でる手も荒々しくなる。溺れさせてるつもりが、 結局は、自分が永井に溺れてることを自覚する。永井にこのまま口唇を喰われてしまうのもいいかもしれない。などという考えが、頭を過ぎった時、 どくどくと脈打つ永井自身から、もうすぐという合図が手に伝わった。 「あああんあぁぁぁっっ!!!」 一条は、永井から口唇を離し、白い首筋に吸い付いた瞬間、身体を仰け反らせ、永井自身から、嬌声とともに白濁の液が放たれた。一条の背中と手が、それに塗れてしまった。ベッドに手を投げ出し、惚けた顔で永井は天井を見上げる。 その姿は、何ともいえぬ淫蕩さがあり、見てるだけで、犯したくなる魔力がある。でも、このまま自分自身を永井にぶち込めば、永井の傷は悪化すると、残りの理性が、判断し、一条は、永井から、降りた。 重みも目の前にあった顔もなくなり、永井は、淋しそうな目で一条を追う。 「まさかそんな顔されるとは、思わなかったな。」 ベッドのはじに座り、顔だけを永井に向け、髪を撫でた。 「先生、帰るんですか?」 一条の腫れた口唇を見ながら、さびしげな声を上げる。 「ああ。薬も塗ったし、そっちの処理もすんだからな。自分で仕掛けておいて、なんだが、これ以上は、やめておこう」 「でも、先生はそれでいいんですか?」 タンクトップをきゅっと掴み聞く。 「ああ。」 一条は、愛しげに永井を見ると、タンクトップを脱いだ。汗で光る逞しい肉体が、永井の前に晒され、永井は、覚悟したように目を閉じた。その様子に一条が、くくっと笑い声をもらした。 目を開け、驚きの表情で、永井は一条を見上げた。 「だから、俺のことはいいっていったろ?俺の背中に掛けやがって、なかなかお前も言い根性してるよ。ほら、どうせ汚れたんだ。これで拭いてやるからじっとしとけ。」 「え?先生!?」 一条が、タンクトップを丸めると、それで、永井自身についた液をふき取った。ついでに自分の手もそれで、拭く。 「やはり、もうすこしいるよ。悪いが、一度うちに戻りたいから、早めに出るが、朝までいても構わないか?それと、シャワー貸してくれ」 スウェットと下着をあげさせてやりながら、言う。 返事の代わりに永井は、上体を起こし、一条の身体に抱きついた。 「今の状態で、そんなことするなよ。本当、お前は、困ったやつだ。これだけ大胆なら、声ぐらいもっと聞かせてくれてもよかろうに。」 「嫌ですよ!」 「分からんな」 苦笑いをし、呆れたように言い、一条は、永井の身体をそっと離させると、タンクトップを持ったままベッドを降りて、バスルームへ向かった。  誇張した自分自身を慰めるために。  残された永井は、眼鏡をかけ、ベッドに仰向けになったまま天井を見上げた。ちょうど伸ばした指先にチューブが、あたり、それを手に取った。  見ているだけで、つい数分前の痴態が思い出され、顔をほんのり赤らめる。  ブルブル。静寂の部屋に振動音が聞こえ、一気に永井は現実に戻された。  どうせメールだと思い、放っておこうとしたが、振動音は鳴り止まないので、仕方なしにベッドから降り、バッグから携帯を取り出した。 小木からの着信だと分かり、永井は、慌てて携帯に出た。話しながら、ベッドに座る。 「もしもし。すみません。なかなか出れなくて」 「こんばんは。もしかして、寝てるところを起こしちゃったかな?」 相変わらず穏やかでやわらかい声が、永井の耳に届く。 「いえ。起きてはいたんですけど…」 「そう。それならよかった。君さ。うちに忘れ物したでしょ?」 「忘れ物?」 小首をかしげ、小木の家に行った時のことを思い出してみると、たしかにバッグの他に血痕のついたケーシーをいれた紙袋を持ち帰るのを忘れていたことに気付いた。 「思い出した?」 「あ、紙袋ですか?」 「そう。どうしようか?明日は?」 「すみません。明日は、高橋医院で当直で、明後日は午後出勤で自分とこで当直なんです」 「そっか。忙しいんだね。じゃあ、来週の月曜日は?朝、一緒に行く時にでも」 「そうですね。月曜日なら、日勤だから、なにもなければ大丈夫です」 「うん。了解。月曜日にいつもの時間にいつもの場所で。それじゃ、おやすみ」 「おやすみなさい。」 「今、夜勤中だから、まだ寝るわけには行かないんだけどね。僕も早く君に返して、君のケーシー姿がまた見たいよ。じゃね」 「え?」 ツーツーツー。永井が、ケーシーという言葉に動揺に色を示した時、通話を切られた。  紙袋なので、中身が見えてしまうのはしょうがないが、首の血痕を見られたのではないかという不安が過ぎり、表情を曇らせた。  「何かあったのか?」 ジーンズにYシャツを素肌に袖を通しただけの姿で、一条が部屋に入ってきた。表情がさえない永井に気付き、隣に座り、顔を覗き込む。 「なんでもないです。」 「お前は、いつもそれだ。」 「すみません。俺、知り合いのうちにケーシーの入った紙袋を忘れてしまって…。そのケーシーって、あの時着てたやつでして、首に犯人の血痕がついてたんです。 知り合いにそれを見られたんじゃないかと思って、不安になってきてしまって…血痕って言っても一滴だから気づかれていても別に大丈夫だとは思うのですが……。」 「犯人の血痕?それは、貴重なものだな。それも大事だが、知り合いとやらにまた逢うのか?」 「はい。今度の月曜日に一緒に病院に行く事になって。」 「一緒に病院?その知り合いって、病院のやつなのか?」 一条の表情が徐々に険しくなっていく。 「あ、もしかしたら、先生も知ってるかもしれません。その人、前に二外にいたって言ってましたし。小木涼一朗っていう、看護師なんですが……。」 「小木!?」 一条が目を見開き、永井の両肩を力いっぱい掴み、驚きの声を上げた。

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