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第30話

不機嫌を身に纏い一条は、ズカズカと歩いていく。その斜め後ろを永井はついていく。 そして、辿り付いた場所は屋上外観庭園だった。偶然にもふたりで腰をおろしたのは蓮見にキスされたベンチだった。 「俺は、上にどう思われようが、構わない。あいつと違って、あちこちつまみ食いしてるわけではないしな。たまたま好きになった相手が、 男だったってだけだ。」  一条が、吐き捨てるように言い、ポケットから、ラッキーストライクを取り出すと、それを一本口に銜え、ZIPPOで火をつけた。 「俺も好きです。」 「ほお。どんなツラして言ってるんだ?」 「げほげほっ」 一条が、永井の方を向いた時煙が、永井にかかってしまった。永井は、煙を吸ってしまい一条から、顔を逸らし、咳をする。 「悪い」 一条は、急いで、携帯灰皿に煙草をしまう。そして、永井の背中を擦ろうとしたが、背面恐怖症の事を思いだし、手を宙に止めた。 「げほっ…あ、すみません。大丈夫です。そういえば、先生が俺の前で煙草吸うのって、初めてですよね。」 「ああ。苛立つ時に少し吸うくらいだからな。」 「苛立つ…」 苛立つという言葉を聞き、永井の頭の中に昨日の朝、車の中で自分を待っている時、一条が、煙草を吸っていたのを思い出した。 「どうかしたか?」 「いえ。昨日俺の事を待っていた時に車の中で先生が煙草を吸っていたなと思いまして。」 「……ああ。お前が察してる通りだよ。まさか俺との約束をほごして他の男とふたりっきりで飲んだ挙げ句家に泊まっていたなんてな。」 「あの時は本当にすみません。本当に小木さんの家に泊まったのは、あの日の1回だけです。しかも泊まりたくて泊まったわけでもなくて流れというか気づいたら、朝になってて……。」 「その言い方は、ますます怪しいな。」 「すみません…。」 「俺が悪かったよ。からかい過ぎた。そんなに泣きそうな顔をするなよ。」 一条の手が永井の肩を抱き寄せる。永井は、回りに人がいないのを確認するとそのまま一条に凭れた。 「俺、そのような顔してますか?」 「してるぞ。特に小木が乱入してた時にな。」 「あれは…あの時はあの人が俺のことを何か知ってるような気がしてそれがすごく怖かったで ので……。小木さんと接している時の先生も怖かったのですが…。」 「いやあ、小木と話してるとああなっちまうんだよ。お前といる時は気をつける。で、小木が何か知ってるってのは?」 「具体的に何をってわけではないのですが、ただの俺の勘です。」 「うーん。そうだな。例えば蓮見の件じゃないのか?院内で、お前のこと見張ってりゃ、蓮見がお前に懐いてんのは、分かるだろ。蓮見が夜中によくお前を呼び出してる事とか。」 「はい。それもなのですが、他にも何か知ってそうな気がして、怖いのですよ。」 永井が、視線を上げ不安そうな眼差しを一条に向ける。 「ありえるとはいえ、お前は、何もするな。動くなら、俺が動く。」 一条が、まっすぐ永井の目を見据えたまま、低く厳しい口調で、言い、永井の米神にキスを落とした。

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