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第38話※
「……分かりました。まずは映像を確かめてからです。」
「いいよ。その前に君の覚悟を確認させてね」
「確認?」
「一条の事守りたいんだろ?ほら、ここに。」
小木は、口唇が触れるか触れないかの距離まで顔を近づけ、自分の口唇を指差した。
「すればいいんのですね?」
「そう」
「……んっ」
自分から一条以外の男にキスをするのは、不本意だが永井は、
首を動かし、小木の口唇に自分のそれを押し当てた。
「君の意志はそんなものなの?そんな小学生でもできるキスじゃ映像を見せるにも値しないよ。」
「っっ……。」
しかし、小木はすぐに顔をあげ、永井のネクタイを軽く引っ張った。
首が締め付けられる苦しさに顔を歪めながも小木を見上げる。
「もういちどできるかな?」
「……。」
子供に言い聞かせるように言われ、小さく頷くと、小木の首に腕を絡ませ、
自ら引き寄せた。
やはり生半可な覚悟では、この男に通じないのだと、永井は痛感する。
「んんっ……。」
永井は、舌の先を小木の口唇と口唇の間に差し入れ、口唇を重ね合わせた。
小木は、ネクタイを放し、そのまま今度は永井の両頬を挟み、長い舌で永井のそれを絡め取った。
深く執拗に蠢く舌の動きは、特別室で強姦された時にされたキスを永井に思い起こさせた。
何も考えてはいけない。と、永井は自分に言い聞かせつつも一条への罪悪感とあの時の恐怖と抵抗できない悔しさ過り、永井の瞳からは、自然に涙が頬を伝った。
角度を変えて繰り返される口づけに唾液が、永井の白く綺麗な首筋を伝う。
激しさに眼鏡が顔からずり落ちそうになる。
漸く小木は、口唇を永井から解放し、首筋にそれを移動させると、唾液の雫を吸い、そこに赤い烙印を落とした。
まだ息を整えながら、永井は、首筋に感じたくすぐったいような感触に僅かに顎を反らせた。
ニヤリ。小木は一瞬だけ笑みを浮かべると、永井から一旦降りた。
「はあはあはあ……。」
永井は、荒く息を吐きながら、ずれた眼鏡もそのままに仰向けのまま天井を見上げる。
その目線の先には、まっすぐに立ち、永井を見下ろす作り物のような綺麗な笑みを浮かべる端整な顔があった。
「たまらないね。その乱れた感じ。手元にデジカメがないのが残念だ。是非とも記念に撮りたかったのに。」
「……。」
「裸眼の君も好きだけど、眼鏡は掛けたままにしようかな。そうした方がよく見えるものね
いろいろと。」
小木が傍らに一旦しゃがみこみ、永井の眼鏡を元に戻した。
そして、再び永井の体を仰向けのまま肩に担いだ。
どうして、このひとは、同じくらいの身長の自分を軽々持ち上げてしまうのだろう。
小木の力には、敵わないことを思い知らされ、同じ男として、永井は、情けない気持ちでいっぱいになった。
永井が運ばれたのは、玄関の隣の部屋だった。予想とは違い部屋の中は赤で統一されていた。
ベッドとテレビと本がぎっしり詰まった本棚があり、机にはパソコンが乗っている。
小木は、ベッドの横に立つとあお向けの乱暴に永井の体を落とした。
「っっ!!!」
以前永井が寝ていたベッドの布団とは質が違い、固い布団の上に落とされ永井の背中に痛みが走る。
永井は痛みに顔をしかめ背中を擦りながらゆっくりと上体を起こした。
「ごめんね。手が滑っちゃった。背中大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
小木が、背中を擦ろうとするので、永井は咄嗟に壁へと移動し背中を壁につけた。
「ああ。背中だめなんだっけ。そんなに怖いの?」
「ええ。…まあ」
「この間、永井くんが背中がダメになったのは最近ではないって言ってたけどさ。やっぱ最近じゃないのかな?って、僕なりに考えてみたんだけどね」
「僕の事はいいのです。早く先生の映像を見せてください。」
「まあまあ。時間はまだあるんだから、焦らないでよ。まずはこれを観て。僕の考察。」
小木はベッドから離れ、パソコンの方へと歩いていった。
何を見せられるのだろうか?永井は、睨みつけるように小木の行動を目で追う。
鼻歌まじりに小木は、パソコンを起動させ、マウスを操作した。そして、永井が見えやすいように半歩横にずれた。
パソコンの画面に映っていたのは、目隠しをされ、白い布で口を塞がれた男だった。
「……。」
永井の表情が固まる。
どう見ても、それは自分だったからだ。
スライド方式で、次々と画像は切り替わっていく。
いくつかブレてはいるものの特別室で姦された時のものである。中には、永井に送られた画像も含まれていた。
「な…んで、これを持って…」
あの時の感情が甦り目を逸らしたい気持ちもあったが、真相を確かめるべく永井は目に涙をためながら耐えた。額や背中に汗が滲む。
最後に犯人の顔が僅かながら映っているものが見え、その顔を永井は、凝視した。
確かにその可能性はあった。
背後、催涙スプレー、腕力の強い男。
これで、永井の中で全ての合点がいった。
「あなただったんですか!?」
布団を両手で握り締めたまま、叫んだ。
「やっぱ、活きのいい魚を調理するのは、いいね。でも、あの時の頭突きは痛かったなぁ。まあ、その分、処女の味を堪能させてもらったからよしとするけどね。どうしよっか?これも消して欲しい?」
「……。」
小木が、ゆっくりと振り向いた。
彼と目が合い、永井の額から、汗が滲んだ。それを拭う事なく永井はこくりと頷いた。
「了解。かわいい永井くんに免じて、消してあげよう。まずは、このパソコンに入ってるやつから、消すね」
小木が、鼻歌交じりにマウスを操作し、パソコンに入っているその画像をすべて消去した。
そして、パソコンの隣に置いてあるデジカメを持つと、ベッドに腰掛け永井に近づいた。思わず、壁伝いに永井は隅へと移動してしまう。
「ああ。やっぱり僕の考察は合っていたってわけだね。最近の君はエレベーターで、別れ際に指先でちょっと背中に触れただけでもいちいち反応してくれるから本当に楽しくって。今夜は安心して。ちゃんと前からもするからね。」
「……。」
腕を伸ばし、指先で永井の口唇を撫でる。
途端に永井の口唇が小刻みに震え、身体を強張らせた。
「このデジカメが大元だね。ここを押せば、画像が見れるし、こっちを長押しすれば、全て消去されるってわけ。ほら、永井くんやってみて」
デジカメを永井に手渡した。
永井は、震える指でそれを受け取ると、最初の画像だけを確認した後、全消去をした。少しだけ、すっきりした気分になるが、まだ問題の研修医室での映像を見せてもらっていない。
他にバックアップがないかも不安だ。
「肝心のモノを…見せてもらってませんよ。それと…他にコピーは、存在しないのですか?」
「さすが永井くん。コピーは、存在するよ。映像のほうもね。それは、もちろん…」
「俺しだいって、わけですか?」
「そう。ちょっと待っててね。」
「?」
小木が不気味な笑みを浮かべたまま永井から離れた。
そして、本棚に向かうとその中から本を二冊抜き、その奥から、黒い文庫本サイズのプラスチック製のケースを取り出した。永井が、怪訝な顔で小木の行動を追っていると、小木が、それを持って再びベッドの端に座った。
「それ…何ですか?」
ケースを指差しながら、恐る恐る永井が聞く。
「これはね。後のお楽しみってね」
ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら、膝に置いた黒いケースを開けた。
中には注射器とお弁当についてくるプラスチック製の容器のようなものが5個入っており、
小木は、容器をひとつだけ取り出した。
そして、容器の蓋を開け、注射器の中にいれた。
「俺に何する気ですか!?」
「安心して。2時間くらいで切れちゃうし、後遺症もないらしいしね。」
永井に見せつけるように針の先端から少しだけ液体を出す。
「…そんな事しなくても俺ちゃんとしますから。」
「そういわずに。今日は特別な夜にしたいんだ。」
「痛っ……ぅ……」
「……。」
後ずさりしようとする永井の右腕を小木が、捕まえ、顔には笑みを張り付けたまま徐々に力を込めていく。
「すみませんでした。」
「分かればいいんだよ。」
永井は、痛みに顔をしかめながら、謝罪の言葉を口にすると小木はすぐに右腕を解放した。
小木は、永井が、おとなしくなると、手馴れた様子で、右腕の動脈へと注射した。
チクッとした痛みが走ったのも束の間、永井の身体中が、わけの分からない熱さに支配されていく。熱さに悶えそうになるのを永井は、口唇をかみ締め、布団を掴み堪える。
「どう?気分は?」
「!?」
注射器をケースにしまい、それをベッドの端に置くと、小木が、靴下を履いていないほうの指先から、足首までを指先で撫で上げた。
ビクン。途端に永井の下半身に電撃が走り、肩が跳ねた。
ジンジンとした痺れが下半身を襲う。
この異常なまでに過敏に反応してしまうのは、注射器のせいだ。と、永井は悟るがどうすることもできない。
「やっぱり、注射は、効き目が早いみたいだね。」
「何打ったんですか!?」
「分からない?催淫剤だよ。この間は、痛い思いさせちゃったからね。今日は、楽しんでもらおうと思って。」
「っっ!?」
小木が永井の足首を持ち上げ、親指を口に含んだ。飴玉のようにしゃぶり、親指と人差し指の間を舌でなぞる。
先程は、嫌悪感や気持ち悪さしか感じなかった行為に永井の下半身がどうしようもないくらい疼いていく。
布団を掴んだ手に力を入れ、俯き口唇が白くなるくらい漏れそうになる声を堪える。
「そんなことしたら、せっかくの綺麗な口唇が、切れてしまうよ。」
「……。」
小木が、顔を上げ、足をゆっくりと下ろすと、永井の頬を包み込み見つめた。
頬に触れる小木の冷たい手の感触にすら新たな刺激を感じ、永井は腰をもぞもぞと動かす。
先走りが、彼の下着を濡らしていく。
「僕が頬に触るだけでも感じてるの?」
「そ…んなこと……っぁぁ………っ」
輪郭を辿るように小木の指先が永井の頬を撫でると永井の口から小さく声が漏れた。
眼鏡のレンズ越しでも焦点の合わない薄茶の瞳が涙で濡れているのが分かる。
その有り様は、まるで、捨てられた子犬のように構って欲しいと小木を求めているようにも見える。
「ホントに君は、かわいいひとだ…」
「ぁっ…ぁぁっ……」
小木が、頬から首、肩へと手を下ろし、そのままゆっくりと永井の身体を横たえた。
そして、脚の間に身体を割り入れ、片膝を永井の股間に押し付けた。
すると永井は、擦られる刺激に耐えられず、声とともに下着の中で、白濁の液を放出した。スラックスにお漏らしのようなシミが、くっきりと映る。吐き出してしまったことに永井は羞恥心に頬を染め、目を閉じた。
小木は、ちらりとそれを見やると、膝をいったんどかし今度は、永井の右腕を持ち上げ、腋の下に顔を埋めた。
本人の意思とは裏腹に身体は些細な刺激にもすぐに反応し、一度沈んだはずの熱が再び永井の身体を蝕んでいく。
「素敵な匂いだね」
「小木さんっ、そこはぁっっ…はぅ…あああぅ……」
小木は、汗ばんだシャツ越しに腋の下を吸いながら、両乳首を右手で押し潰さした。
甘い痺れに耐えられず、永井は、左腕で小木の背中にしがみつきながら、嬌声を発した。そして、再び放出してしまった。
「いやらしいね。これだけでイケるんだ。」
「はぁはぁはあ」
繰り返す波に永井の体力は奪われ、荒い息を吐く。
浅ましい自分が恨めしく、どうすることもできず、永井の瞳からは、涙がとめどなく溢れる。
快楽の渦は止まることを知らず、早く開放させて欲しくて腰がいやらしく揺れる。
早く過ぎ去って欲しいと心の中で、永井は叫ぶ。
ブルブル。服越しに触れる手や口唇に何度かイカされているとポケットに入れていた携帯が、振動した。
小木から左腕を離し、携帯をとろうとしたが、永井よりも早く左手で、永井の携帯を取った。
「一条先生みたいだよ。」
腋から顔を上げ、乳首を込め繰り回す手を止めずに携帯の液晶を見ながら、告げる。
「あっ…切ってくださ…い」
胸を上下にさせ、息も切れ切れに言う。本当は、今すぐここから出たい。でも、それだと一条に迷惑がかかってしまう。大切な人に迷惑を掛けたくない。
「分かった。」
小木が永井の股間に顔を埋め、通話ボタンを押した。
「ああっっ!!!」
「永井っ、どうした!?」
永井が、背をしならせ嬌声を上げる。
その声と被るようにかぶるように一条が叫んだ。
てっきり小木が携帯を切ったとばかり思っていた永井の心に絶望が広がる。
「先生!?……はぁっ…あぁ……なんでもないんです!違うんです!」
「……。ツーツーツー…」
「あーあ。切られちゃったみたいだね。かわいそうに」
永井は、小木から携帯を奪い、吐息を漏らしながらも必死で一条に訴えるが、一条は無言のまま、携帯をきった。
ツーツーツーという虚しい音が、永井の耳に響く。小木の言葉は耳に入らない。
恐らく、この声で、自分が浮気をしていたと思われたかもしれない。一条のために裏切るような行為をしているとはいえ、いざ、その声を聞かれてしまうとなると、ショックでたまらない。
考えてみれば、理由があるとはいえ、裏切った上で、それを隠しながら、得られる幸せなんか存在しないのだ。自分は、その報いを今受けてしまったのだろう。
永井の中で心が壊れていく音がした。
「…小木さ…ん、早く貴方をくださ……い」
永井は、携帯をベッドの向こうへと放り投げた。
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