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第3話
「寝不足か?」
「ん……まぁ……」
講義が終わり、大きな欠伸をして眠そうに目をこする俺に心配そうな表情をしている慎吾に曖昧に返して廊下を歩き出す。
寝不足……確かにあまり眠れてはいない原因も自分ではわかっている。
2年になり俺の専行する心理学科はより細かい分野について勉強するようになった。
レポートのテーマが『人が嘘をつく心理』これが俺を不眠にさせている。
テーマが難しいとかそういうのではなく……『嘘』こそが俺のトラウマの原因であり、人を信じることができないのもそのせいだ。
俺が心理学を学ぼうと思ったきっかけも嘘をつく理由を知りたかったからだ。
そんな俺にこのレポートは荷が重すぎる。
「慎吾はレポート進んでる?」
隣を歩く俺より背の高い慎吾を見上げるように声をかけた。。
「まぁだいたいは終わったかな。進んでないのか?」
眉間にしわを作りながら咎めるような目で慎吾が俺を見る。
「ん~~」
「だいたいお前はだな――」
保護者モードの慎吾に進んでないなんて言おうもんなら何を言われるか……。話しを逸らそうと思った時にはもう遅かった。
「みーずーさーわー!」
慎吾の小言がはじまろうとした時、それを遮るように大声が背後から聞こえた。
振り返ると大声の主、藤崎が満面の笑みですぐ後ろまで来ていた。
「でかい声出すなよ藤崎」
立ち止まり背後の藤崎を見ながら慎吾の小言を聞かずに済んだことに少しほっとして小さく溜息をついた。
「水沢今日暇だろ?な?暇だよな?」
俺の態度におかまいなしに藤崎は楽しそうに聞く。
あぁ……こいつがこんなに楽しそうに聞くときは大抵――。
「合コン!行くだろっ!」
やっぱりな。藤崎は悪いやつじゃないけど、とにかく合コンが大好きだ。
大学入ったのも合コンのためなんじゃないかと思うくらい暇さえあれば合コンしている。
「今日はテニスサークルの合コンなんだよ!水沢も参加して!な!」
面倒臭そうな顔をしている俺を気にもせず肩をバシバシと藤崎が叩く。
「痛 ぇ!」
藤崎の手を払いのけながら関わりたくないと言わんばかりの顔をしている慎吾に助けろと目で合図を送った。
「翔はレポートで忙しいだろ」
俺の視線に気付いた慎吾が冷めた目で藤崎を見る。
「保護者同伴ならいいんじゃん?」
慎吾の冷めた目を気にも留めずに藤崎が笑いながら言った。
「はぁ?」
あからさまに不機嫌な声を出す慎吾に二人確保!などと嬉しそうに藤崎はスマホをいじりだした。
藤崎のメンタルどうなってんだよ……。俺も慎吾も心理学専攻だけど卒業までに藤崎のメンタルを理解できる日はこないのかもしれない。
「まぁどうせ帰っても進まないだろうしな……」
俺が呟くと藤崎は時間と場所を告げると後でな!と慌ただしく去っていった。
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