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第5話
全員揃ったところで乾杯しながら自己紹介がはじまった。正面の女の子は杉崎麻央という同じ2年だった。
女の子は杉崎さん以外が3年か4年で俺達より年上ばかりで、男子は俺と慎吾と藤崎以外の二人は4年。女の子の方が年上が多いって藤崎の人選どうなってんだ。
女の子の方も年上の人がいいのか、唯一同じ年の杉崎さんは慎吾にばかり話しかけているし、他の女の子は4年の人達に話しかけているし、俺と藤崎は浮いている状態だ。
それでも気にせずあちこち移動しながら話しかけてる藤崎をすごいなと尊敬してしまう。
悪いが藤崎、俺はこの状態で話しかけられるほどメンタル強くはないぞ。
俺だって人並みには彼女が欲しいとは思っている。思ってはいるが……好きだと言われたとしても俺に信じることができるだろうか。あからさまに疑ったりはしないけど、内心信用できない程度にはひねくれている自覚もあるんだよな。まぁ言われたこともないんだけど。
「酒、飲めないのか?」
帰りたいと思いながらウーロン茶をちびちび飲んでいた俺の隣から声がして左に顔を向ける。
「あ、いえ……えっと――」
言いながらじっと顔を見た。確か五十嵐――なんだっけ4年の……。登場した時の女子の喜びようを思い出していた。
「五十嵐、五十嵐佑真。教育学部4年」
ふっと優しく笑いながら五十嵐さんが言う。
何だこのイケメン。背も高いし、俺より頭一つ分は高い。俺の身長が平均より低めだとしても180cmは超えてそうだ。一見すると近寄りがたく見える漆黒の真っ直ぐな髪も、研ぎ澄まされた切れ長の奥の柔らかい茶色の瞳が優しく迎え入れてくれる気がする。すっと通った整った鼻筋、薄い唇は柔らかい弧を描いている。
整った顔立ちの見本のようだ。
教育学部って言ってたけど、この人教師になるのかな、こんな先生いたら女子は勉強どころじゃなくなるんじゃないか。男の俺ですらじっくり見てしまうくらいカッコイイ。
何でこの人合コン来てるんだ。合コンなんか来なくてもよりどりみどりじゃねぇの。嫉妬とも羨望ともつかない気持ちに心の中で悪態をつく。
「あ、俺は――」
「水沢だろ。水沢翔」
言いかける俺を遮って優しい笑顔のまま言う。
「あ、はい」
イケメンの笑顔に圧倒されて俺は視線をウーロン茶に戻す。
「水沢って……」
うーんと考え込むように呟く五十嵐さんの声が聞こえる。
「水沢渓の知り合い?」
俺に問いかける五十嵐さんの顔を勢いよく見た。
「なん――」
何での言葉が詰まってうまく出ない俺の驚いた顔を少し驚いたような顔で五十嵐さんも見返す。
「兄です」
それだけ言って左に向いた体半分を元に戻した。
「あぁ、そうなのか。苗字が同じだったから知り合いなのかなと思って」
そう言うと五十嵐さんはまた女の子に話しかけられていた。
五十嵐さんにとってはただ気になっただけなんだろうけど俺を動揺させるには十分過ぎた。水沢渓。俺の二つ上の兄であり、俺のトラウマの元凶。
「翔?どうした?」
俯いていた俺の顔を慎吾が覗き込んだ。
「慎吾……俺……」
俺は俯いたまま右隣の慎吾の服をつかみながら小さく呟く。
「藤崎、俺と翔帰るな」
俺の様子がおかしいことに気付いた慎吾が藤崎に声をかけながら立ち上がれない俺の腕を掴んで引き上げた。
「えぇーどうしたの水沢。うわっ真っ青じゃん」
藤崎が俯く俺の顔を覗き込んで驚く。
「悪いな。こいつ連れて帰るわ」
俺を支えながら慎吾が謝る。
周りの心配そうな声にも俺は何も返せず無言で慎吾に支えられながら店を後にした。
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